第133話 真逆の匂い
パチパチパチ―パチ――
火というものは恐ろしい。ハクヤは正面へと魔法を放ったはずなのに気付けば周りは火の海と化している。
「これ怒られるかな…、」
「そうですねー。100%100%ってところじゃないですか?」
逃れるすべ無しと。
「……はぁ、仕方ねえか。ハクヤ、水属性魔法使えるよな?俺も手伝うから消化活動するぞ」
「エンドレスレインの使い所だね」
「終わったらスキルは切っとけよ?水害で訴えられちゃ困るからな」
今はボスモンスターを倒した直後、ならば再び復活するまで時間はある。すなわちボスモンスターを呼び寄せるデメリットは無いも同然。
雨が振り始めると俺も杖により魔力の底上げされたウォーターショットで後始末をしていく。
「いやぁ……見事に緑が無くなっちまったが大丈夫なのか?」
「正直、呪いの平原って言われてるのに自然が豊かなのって観光名所としてはちょっとパンチが弱いんですよね……。これくらいなら丁度良いんじゃないですか?」
ろくな観光名所じゃねえや。
時間があれば聖職者の楽園と呼ばれるこの街を見て回るのもアリだったのだが辞めたほうが良いのかもしれない。
そしてほぼ全ての火が収まった頃、イブが何かを見つけたのか俺の袖を引いた。
「の!の!」
「どうしたイブ?また曰く付きの変なもん見つけたんじゃ無いだろうな……」
「あっちからすごい臭い匂いがするの!」
「あっちって…特に何も――」
「確かに何かの匂いを感じるね。薔薇のような…ラベンダーのような…花のような……」
全部花だろ。
「それじゃあイブと真逆じゃねえか。そもそも俺には何の匂いもしないが…」
「私もです。これといって気になるような匂いは無いですね。強いて言えば火を消したばかりなので焦げ臭いぐらいで」
「ああ、多少焦げ臭いのはあるな。イブ、それじゃ無いのか?」
「んーん、違うの」
左右にゆっくりと首を振るイブ。
「……どうしたものか」
「行ってみます?」
「うーん、イブは気になるか?」
「なの!」
興味津々な様子。
「僕も気になるよ」
聞いてないけど。
これは悩みどころ。今までの傾向上この先余計なことに巻き込まれる可能性は高い。しかし他の誰でもない、イブが興味を持っている。更にハクヤは真逆の匂いを感じ取っているのが気掛かりだ。
「……仕方ない。チラ見だけな」
「ピンポンダッシュみたいなものだね」
知らないけど多分違う。
「方向は?」
「あっちなの」
イブは先程迅速アメフラシがいた方向を指し示した。ハクヤも同じらしく既に歩き始めている。
とは言っても俺とエルスには何も感じ取れてはいない。草木が燃えたことで見晴らしも良いのだが気になるものも無い。
だが問題は少し歩いたところで俺が質問をした際に起こった。
「ハクヤ、近いか?」
「何を言っているんだい?近いも何もすぐ目の前にあるじゃないか」
「……は?」
そう言われたのは比較的大きな岩の前。
「ん……まっくろなお家なの…」
「いえ…私には見えませんが…」
「家では無く祭壇と言うものだね。僕の元いた世界にあったものさ」
俺とエルス、ハクヤとイブで見えているものが違う。
ハクヤは勇者だ。勇者にしか見えないものがあると言うならば俺も信じる。だが問題はイブにも見えていると言う事。
「イブにはどう見えているんだ?」
「ん、くろい霧に包まれたさいだん?なの」
「ハクヤは?」
「黄金の祭壇だね。一つの刀が置かれているのが見えるさ」
「エルスは?」
「岩です」
知ってた。
少し考えるがこればっかりは俺にはどうしようも無い。
「どうするべきか……」
「ハクヤさんには普通に見えているんですよね?ならハクヤさんが調べるしか…」
「と、言われると思って先に刀を取っておいたよ」
「ばっ―――!?」
その瞬間、ハクヤの手元が輝いた。慌ててイブが俺の後ろへと隠れるが特に害は無いようだ。
光が収まり、薄っすらと目を開けるとその正体はようやく俺の目に写る。
「……ピンクの刀?」
ハクヤの手にした刀。それはピンクの彫刻の施されたごく普通の刀だった。
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