第132話 奇想天外
『シュルンゴォ…』
液体をすべて吐き出したのか迅速アメフラシの膨張した身体は元へと戻り、溶かし尽くしたことで蒸気に包まれる辺りを見てこちらの生存を伺っている。
ヘリオルグランテストを解除した俺はイブとハクヤと合流。ひとまず一難去ったというところだな。
「まさしく初見殺し技だね。初見で防いでしまって申し訳ないくらいさ」
「……俺はスキル増えてなかったらヤバかったからな…。溶けるのは勘弁だぞ」
「私の心の氷も溶かしてください!」
急に何だこいつは。
「聖女関係もバレちゃいましたしこれからはツンツン系美少女ヒロインで売っていけないですかね?」
手遅れ系ヒロインの戯言を無視して俺は辺り一帯を見渡す。草木の腐敗が進み液体も蒸発しきっていない様子だ。
「動けないの…」
イブが足元を見て言った。
「足場が悪いのはちょっとマズイな…」
この状態では韋駄天なまこの様に突っ込んで来られては避けるすべが無い。
『シュルンゴ…!』
気付かれたな。
「おいハクヤ!地面を出現させたりは出来ないのか?」
「ふむ、空中に足場を作るスキルなら無いこともないね」
「空中?よく分からんが一時的に出現させられるなら頼む!」
「そこまで言うのならば…フロルラウンド」
ハクヤがスキルを使用する。すると空中に現れたのはヒューマンが4~5人は立てるような透明な足場。
………俺の頭から10メートル程上に。
「……あそこまでどう行くんだ?」
「募集中さ」
くたばってくれ。
「てか、そうこうしてる間にあいつ足バタバタさせてるじゃねえか!」
「韋駄天なまこで似たような動きを見た気がします!突進攻撃が来る可能性が高いかと」
「そりゃマズイな…」
防ぐだけならヘリオルグランテストでどうにかなる。しかし問題は解決しない。攻められ続けるだけのジリ貧だ。
「くそっ…時間がねえ!教養がある!」
エルスへの褒め言葉で再度ヘリオルグランテストを使用。エルス達は後ろへ下がる。
『シュルンゴオオオオオオッ!!!」
予想は当たり、瞬きをした一瞬のうちに迅速アメフラシは目の前へと接近し姿を見せる。
ヘリオルグランテストへの突進で甲高い音が鳴り響き、地面の揺らぐ。2つの音が重なり俺の耳を圧迫する。
「ぐうぅおお――」
「ワタル、君は少し難しく考え過ぎさ」
ヘリオルグランテストを使用する俺の横でハクヤは右手を構える。
「……何考えてんだよ」
「足場が無いのならば作れば良いのさ」
「は――」
「ネオフレア・エクスブラスト」
直後俺の真横から放たれた炎の光線は目の前の迅速アメフラシはもちろんのこと液体の撒き散らされた地面を削って飛んでいく。
ヘリオルグランテストを解除した俺の目の前に広がる光景は凄まじいものだった。
「……何で毎回これやらないんだ?」
「ワタルは竹トンボを飛ばしてそれが魔王の首を刎ねたら楽しいかい?」
んな奇想天外な状況あってたまるか。
そうハクヤの理論に反論する中、ふとエルスに肩を叩かれた
「……あの、お二人共お話する前にどうにかしません、これ?」
「ん…臭いの」
「なかなか臭いね」
「確かに変な匂い――」
焦げ臭い匂い。そしてパチパチと何かの焼ける不穏な音。改めて周りを見渡した俺は絶句する。
「ふむ、やはり漫画やアニメみたいには上手くはいかないね」
原因は迅速アメフラシの謎の液体とハクヤの上級魔法。
そう、山火事ならぬ平原火事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます