第131話 紫色の液体
『シュルンゴオオオオオオオオオッ!!!』
迅速アメフラシが咆哮を上げる。
「おいハクヤ!お前が引っこ抜くからこんなことになったんだからな!」
「冷静に考えたまえ。目の前にボス、つまりは何か物語が動き出した合図さ」
これまた変な妄想が始まった。
「……物語?何があるってんだよ」
「僕らはこれから、アンデットパーティーとして生きていくのさ」
全滅してるじゃねえか。
「ワタル、僕と共に魂を主食として生きていこうじゃないか」
「あの…アンデットはお腹空かないと思うんですけど……」
「そもそもアンデットは生きてないの」
予定がガバガバってどころじゃねえな。
と、油断している俺達だが迅速アメフラシはその場を動かない。似たような姿をしていた韋駄天なまこを見るに遠距離技が飛んでくるとは思えないが……。
「……もぞもぞ動いてるな」
「ハレンチだね」「ハレンチですね」
お前らの頭がハレンチだよ。
「はれんちって何なの?」
こりゃまずい。
「え、いや……それは…難しいな」
子供の純粋な質問にどう答えたら良いものだろうか。濁す?それはそれで――
「ワタルさんの事ですよ」
「ハレンチおにーちゃんなの!」
「正解、と言わざるを得ないね」
俺の正義の初級魔法がエルスとハクヤを襲おうとしたところで迅速アメフラシは動きを見せた。
迅速アメフラシはその身体を立てると瞬間的に膨張、その憤怒の顔から紫色の液体を噴出させる。
「おおおおいっ!酸とかじゃないだろうな!逃げ場なんてねえぞ!」
「きっと服だけ溶かすエッチな液体ですよ!小さい頃にお姉さまの部屋でそんな本を読んだ気がしなくもないです!」
クソッ!恐ろしく曖昧だ!
「各自防御といこうか」
「振り払えば問題ないの」
ハクヤはデュソルエレイザー、イブは……何だっけなあの杖…。そう、確かオルタンシア・ネオを構え防衛体制に入る。
「よ、よし……『身体能力が高い!』」
ひとまず俺もヘリオルグランテストを真上へと発動させ避難。どんな効果かも分からない液体にかかるわけにはいかない。
「ワ、ワタルさん!入れてください!」
「はっ!?おま…急に押すなよ!お前には全てを完全に防御するスキルがあったはずだろうが!」
「あれ空気もシャットアウトするから持続系の攻撃には使えないんですよ!ワタルさんも死にかけたじゃないですか!」
……そんな事もあった気がする。確かあのあとは結局気絶してクラリスに助けてもらったんだっけか。
ひとまずエルスを盾の下へ引き入れた俺は静かに待機。程無くして大量の液体が降り注いだ。
ジュッ、ジュゥゥゥ!!!
周りの草木は溶け、ドロドロとしたモノへと姿を変える。近くにいた虫すらも飲み込み辺りを溶かすその液体は現在俺達をも襲撃中だ。
「おい!何が服だけ溶かすだ淫乱ッ!ばりばり地面が溶けてるじゃねえか!」
「……最近我慢していたせいでこの光景すら草木や地面が悲鳴を上げているようでちょっと興奮しますね」
先にエルスの脳が溶けちゃった。
「はぁ…取り敢えず足が液体に触れないように気を付けろよ?」
「分かってますよ、それよりイブちゃん達は大丈夫なんでしょうか?」
「……確かにな」
二人共とてつもない力、スキルを手にしているが溶けるような液体からどのように身を守っているのだろうか。
安否確認も含め、俺はその場で少し体制を低くするとハクヤとイブがいる方へと目を向けた。
「その程度の攻撃、僕の前では水鉄砲と同じさ。もう少し頑張ったらどうなんだい?」
「……長いの」
目に映ったのはデュソルエレイザーの一振りで液体全てを蒸発させるハクヤ、そして何故か杖を振り回しているだけで液体を弾け飛ばすイブ。
俺はそっと元の位置へと身体を戻した。
「ワタルさん……?どうでした?」
「……いや…これだけの戦力を保有した俺達が何故上手く行かないのか過去の俺と反省会をだな――」
「脳みそ溶けました?」
ますます謎の深まる運命に少しでも抗おうとする俺だった。
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