第130話 いけ好かない
「迅速アメフラシ…?」
「はい、シスターとして基礎を学ぶ際にここへ来ましたが、そのときに気を付けろと教わった覚えがあります」
確かにここはシスターが修行に来る場所って話は聞いたな。ここらでは有名なボスモンスターなのか。
「それで、どんなモンスターなんだ?」
「気性は荒く無いです。ただ、植物を育てる習性がある……と」
「モンスターに習性か…」
モンスターは空気中の魔力から生まれ、理性無く無差別に人を襲うとされている。それに当てはまらないボスモンスターは何か別の要素で出現しているのだろうか?
そう考えている間にも迅速アメフラシはこちらに警戒を強める。エルスがビビっているのも普段気性の荒くないこのボスモンスターがこちらに始めから敵意を向けているのが原因だろう。
「お、怒ってるの…」
「俺達何かしたか?」
「……ふむ、特に思い浮かばないね。絡まれたことだし人間の恐ろしさを教えておくべきじゃないかい?」
これ存在が悪だろ。
「考えられるとすればテリトリーにでも入ってしまったんですかね?周りに何か目印でもあったら……」
「……ん、足元見てるの」
イブはそう言うと地面を指差す。その指の先には豊かな緑が茂っており雑草から不思議な葉まで……見たことのない葉だ。
「あ…それ」
「どうした?この植物知ってるのか?」
「は、はい!確かマンドラゴラ…みたいな名前で……迅速アメフラシがよく栽培しているとかなんとか―――」
「マンドラゴラッ!?」
聞いたことがある。確か一種のモンスターであり、引っこ抜きその叫び声を聴いたものは死に至る…らしいが。
「何でそんなもんがッ!?」
「きっと迅速アメフラシが栽培していたんですよ!ほら!怒ってますって!」
俺達がマンドラゴラへと近付いた途端、迅速アメフラシの顔が突如として憤怒の顔へ変化した。
「ヤバいヤバい!おい!返してやろうぜ!」
「……?了解だよ」
スポンッ
「……スポンッ?」
「向こうへ投げてくれたまえ」
俺はハクヤが引き抜いたソレを渡され立ち尽くす。現在俺の手のひらにあるのはいけ好かない顔の形をしたニンジンの様なもの。
「……なんだこれ」
『愛してるぜ』
「……喋ったんだけど」
『愛してるぜ』
「………」
「当たりじゃないか」
「当たりですね!」
「当たりなの!」
当たりってなんだよ。
「てか引っこ抜いてんじゃねえよ!マンドラゴラだったらどうして――」
「マンドラゴラ…みたいな名前って言ったじゃないですか!確か本来の名前は……」
「愛を伝えるアイドラゴラだね」
「そうでした!確か愛情を持って育てることによって愛してると喋る植物だったかと」
「へー、そんなもんが…」
『愛してるぜ』
……妙にムカつくな。
「ワタルは靴下の裏側を」
『愛してるぜ』
ぶっ飛ばすぞ。
こんな時にまで遊んでいるハクヤをしばいたところで俺はようやく現在の状況を思い出す。
「ま、とにかく災いの種は返してっと……」
俺が投げたアイドラゴラは返せと言わんばかりに手の様なものを伸ばす迅速アメフラシの元へ弧を描き飛んでいく。これで機嫌が治れば良いんだが。
『シュルンゴッ――シュ!』
ボテッ
「……落としたな」
「落としましたね」
『シュルンゴ!?』
恐る恐る落としたアイドラゴラへと近付き拾い上げる迅速アメフラシ。
『あ、愛してるぜぇ……』
『シュルンゴ!シュルシュルン……ゴ…!』
「………」
「……亡くなりました」
すまん、これ俺が悪いのか?
「この場合は枯れた…というのが正しいね」
「萎れたの」
余裕そうなやつらもいるが大体この後の展開の予想はついている。
『シュルンゴ!シュルシュルンゴッ!』
増した敵意。加わった殺意。
「……戦闘準備な」
あまりにも理不尽なボス戦の開幕だ。
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