第129話 不安材料

「ま、俺もなかなか冒険者としてサマになって来たんじゃないか?」


 俺は韋駄天なまこが消滅したことを確認すると辺りにペタンと座り込む。


「せいちょーき?なの」


 それは貴方ですよ…。


 スキル玉のドロップも無く、少しして立ち上がった俺はイブを引き連れハクヤ達の方へと向う。


「おーい!お前らの方―――」


『シュル!シュルシュルシュッ!?』


『シュルシュル!シュッ!?』


 さて、目の前の光景をどう表現したものだろうか。『地獄』まさにそう表現するのに当たるかもしれない。


「あ、ワタルさん!終わったんですか?」


「……まあ」


「ふっ…こちらも終わった。いや、終わらせているところさ」


 そう言ったハクヤは歩き出す。岩の上をぐるぐると回るように。

 そう、現在俺達は高い岩の上をゆっくりと歩いている。そして――


『シュルシュルシュッ――!?』

  

 ズドンッ――ドシャッ……。


「……一応聞くけど何してんだ?」


「「韋駄天なまこの討伐」」


 そりゃそうだろうな。


「じゃなくてこの状況だよ!状況!」 


 すると二人は顔を合わせ俺が何故引いているのか不思議そうにして言う。


「そうですね……しいて言うならば――」


「バフ掛けておびき寄せ激突自滅爆発作戦ってとこだね」


 なんか良くない文字入ってるけど。


 そう、現在俺の目に映る光景は韋駄天なまこが岩に激突し奇声をあげている様子。


「ハイリスクアップ!へへ〜」


 先程の様子を見れば韋駄天なまこは真っ直ぐ突撃してくるモンスター。まずはハクヤが岩で囲み、そこにエルスがスピードバフを掛けおびき寄せることで急に止まることができずに激突。そうして自滅を図っているのだろう。

 モンスターの習性を利用した良い作戦だ。


「岩の上を歩いているだけで下等なモンスターが衝突し倒れていく…。僕はそれを涼し気に見守る。まるで支配者だね」


「ワタルさん!韋駄天なまこが自ら岩に激突して奇声を!あの苦しそうな顔見てくださいよ!心が清らかになるというか――」


 こいつらでなければ褒めていたところだ。


「で、俺も一匹倒したがお前らは合計で何体倒したんだ?えっと……確かクエストの内容は8匹だよな」


「ふっ、1匹以降は覚えてないよ」


 覚える気が無いと言え。


「おそらく6匹ですね。これを…」


 エルスのギルドカードには直近討伐の欄に韋駄天なまこの名前が6匹連なっている。

 俺のと合わせて合計で7匹。つまりは残り一匹を狩ればいいわけだ。


「ふむ、楽勝だね」


「何の苦もありませんでしたね!」


「余裕だったの!」


 そんな、仲間の声を聞いて安心……いや、どうしてだろう。心臓が鳴り止まない。

 

「……ハクヤ、これから何か恐ろしい化け物が復活するとか無いよな?」


「……?よく分からないがもし僕が覚醒し化け物へと姿を変え、自我を保てなくなったその時は君がトドメを刺してくれたまえ」


 どうして俺は今、お前が化け物になる予定を聞かされているんだ。


「ワタルさんは心配性ですね〜。たまにはこんな風に上手く行く事もありますよ!」


「そうなの!あとちょっとなの!」


 アリアス様の事も片付き、指名手配以外の不安材料は今のところもう無いはず。それに韋駄天なまこなどもう恐れるに足りない。


「そう…そうだよな!よし、あと一匹だ!今回こそ完全勝利と行こうぜ!」


「「「おー!」」」


『シュルシュルンゴ』


 ん?


 気付かないうちに俺達の前には韋駄天なまこが一匹。仲間はいないのかこちらの様子を確認するだけで動く気配はない。

 更には、


「……雨か?」


「天気雨ってやつだね」


 予定に無い雨。妙な空気に包まれる中、エルスが神妙な面立ちで首を傾げている。


「ど、どうしたんだよ…」


「ワタルさん。杖だけ構えてもらって良いですか?あれは多分…」


「多分って――」


 その時俺は気付いた。


 その韋駄天なまこには大きな角が二本生えている。それによく見てみれば顔も韋駄天なまこより険しいような……。


「あれは……呪いの平原のボス。迅速アメフラシです……!」


 まるで当然かのように出て来たボスモンスターであった。

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