第127話 前世で何か
「……少し取り乱した」
いいえ、『凄く』取り乱してました。
現在俺達の前に座るのは現聖女アリアス様とメイドのメディロアさん。アリアス様の息が乱れているのは数分前、聖女にあるまじき醜態を晒していたからである。
そんなアリアス様は一息つき、メディロアさん保有、エルス所有であるハンカチを懐にしまい言った。
「少年、改めて言おう。私の願いを叶えてくれて感謝する」
「……ま、後はエルスとよーく話して下さいよ。そのほうが俺達も安心出来ます」
「問題を後回しにするのは良くないからね」
問題を起こす側に言われるのは癪だが大事なことだ。
落ち着いたところでイブとエルスを再度部屋へと招き机を囲む。エルスが鋭い目でこちらを見ていたが事情を話せるはずもない。
「で、これで解決というわけだが……エルスはこれからも俺達と冒険者を続けるって事で良いんだよな?」
「もちろんです!ワタルさん達が行くなら地獄まで着いていきますよ!」
どうして俺は天国に行けないんだ?
「ならばこれから冒険者ギルドへ行ってみないかい?最近身体が鈍っていてね。発散しなければマズイことになる」
「……例えば?」
「僕の機嫌が悪くなりパーティーの崩壊。ワタルは田舎の鉱山へ飛ばされるさ」
俺やっぱ前世で何かやらかしただろ。
とはいえこの数日教会に引きこもって腕が鈍っているのは間違いない。
「……冒険者ギルドかぁ。行ったら既に指名手配されてるとかねえよな?」
「少年、今変な言葉が聞こえたのだが――」
「「聞き間違えです」」
俺とエルスの声が重なるのだった。
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
いざやって来た冒険者ギルド。入ってみても特に指名手配されている様子もない。
「……借金はここから送金すれば大丈夫だよな?」
「領主邸襲撃は許されませんけどね」
逃げ場が無い。
「そもそもあれはイブが誘拐されたから取り戻しに行っただけだろ?逆にこっちから訴えてやることは出来ないのかよ?」
「権力の差がありすぎますよ…。私達が訴えたとしてもそれが知れた次の日には暗殺者でも送られて来て……」
「返り討ちだね」「返り討ちなの」
こんなときだけ頼もしい。が、そもそも領主を訴えることが現実的ではない事が確か。
「誘拐の動機も知らないしな……。イブは何か聞かされなかったのか?」
「……な、何も知らないの」
「そっか、なら仕方ない。一度忘れてクエストでも受けようぜ」
「そうですね!終わったら買い物も行きましょう!夜は高いレストランにでも入って…」
「お金なら余るほど確保しているからね」
ハクヤが異空間から宝石をいくつか取り出す。金の心配をしなくていいのは安心感があっていいな。
と言うかそもそもお金に困らない。更に呪いの王冠は外れた。冒険者をやる意味すら無いのではないだろうか。
……指名手配されてなければ。
「……よし、お前ら!受けたいクエストを教えてくれ!」
「では私から!『韋駄天なまこ8匹討伐』これでいきましょう!」
「推奨ランクは?」
「Cです!」
許容範囲と…。
「次はイブなの!『キングブリザードドラゴン討伐』これでいくの!」
「……推奨ランクは?」
「Cなの!」
嘘付きと…。
「僕はこれだね。『町周辺の盗賊討伐』」
「推奨ランクは?」
「僕がいればDだね」
ハクヤがいるからSと…。
韋駄天なまこ討伐に決めた俺は受付へと足を運ぶ。現在俺達はイッカクべレッグの依頼を失敗していたことで俺含め全員冒険者ランクはE。だが盾スキルヘリオルグランテスト、杖イリステミスを手に入れた俺に死角は無い…はず。
他には――
「そうだハクヤ、中級魔法教えてくれよ。初級魔法も使いこなせるようになったし、そろそろいけるんじゃないか?」
「ふっ、僕の講義は生易しいよ。耐えられるのかい?」
ふざけてないで教えろアホ。
俺達は今までより一段と騒がしく韋駄天なまこ討伐へと向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます