第126話 見せ場に乱入

 アリアス様のターン。彼女は組んでいた腕を膝に置くとそっと口を開いた。


「……歴代最高の聖女となれば富も名声も手に入る。それが全てでは無いがエルス、お前はそれを受け取るに値する能力を持っているんだ」


「私は…そんなものいりません」


「そう……だったな」


 一種の確認なのか、はたまたまだ信じられないのかアリアス様はそう呟き目線を落とす。


「私は…勘違いしていたようだ…。エルスは聖女になるべき、そう考え聖女としての教養を学ばせようとしてきた。今は嫌がっていてもいずれ分かってくれるだろう……と」


「……分かるわけないじゃないですか…ッ」


「そうだな、だが私は気付いた。聖女としての活動を行っているうちに自分の無力さを…力の足りなさを」


 そう言えばアリアス様とエルスの母親であるセリシアさんは極端に聖女としての適性が低かったらしいからな。血が繋がっている以上アリアス様の適性も良いとは言えないのかもしれない。


「でも――」


「エルス、お前なら私より多くの人を救うことができる―――と思っていた。だが、嫌われるまで…お前が家出を考えるまで追い詰めていたのなら……意味が無い…よな」


 誰かを救うために誰かが嫌な思いをしてはいけない。そういうことだろう。

 

 そしてアリアス様は今一度頭を下げた。


「すまなかった。エルス……」


「お姉さま……」 


 長いこと続いていた姉妹喧嘩だ。エルスも何を言えばいいのか分からず戸惑っている。

 なんとも世話の焼ける仲間だ。


「なあ、エルス。お前も本当は分かってたんだろ?アリアス様が騎士になるために聖女の座をお前に押し付けようとしてるんじゃないってのは」


「それは…」


 少なくとも俺にアリアス様がそんな事を考えるような人には見えなかった。それ以上に一緒にいたエルスが分からないはず無い。


「今が解決の時だと思うぞ?俺は」


「僕が一番思っていたよ!」


「思ってたの!」


 俺の見せ場に乱入する者が2名いるが問題ない。――もうエルスは決めている。


「……はい!」


 アリアス様に対して向き直ったエルスはその手を伸ばす。


「お姉さま。私は聖女にはなりません。冒険者を辞めることもありません。……でも、もう一度……お姉さまと仲良くなるぐらいなら了承しても……いいです」


「ったく……端的に言うと?」


「な、仲直りしましょう!」


 エルスから伸ばされた手は少しずつアリアス様へと近づいていく。


「エルス…いいのか?」


「はい!」


 その日、エルスとアリアス様。二人の長年の姉妹喧嘩は終結した。


「これは感動モノだね。あの握手に混ざりたい気分さ」


「……絶対やめろよ?」


「冗談さ。勇者である僕と握手など末代まで言い伝えることのできるレベルだからね。そう安々とする訳がないさ」


 お前のその発言が末代までの恥だよ。


 ともかく、これで一件落着ってとこだな。

 アリアス様とエルスも笑顔で微笑み合っている。これで安し――


「ふふふ…やった…やった…遂に…やったぞ…エルスが…これで…」


 あー、それは良くない流れ……。


「……イブ、エルスを担いで部屋から脱出」


「お任せなの!」


 こんなもん当人に見せられねえよ。


「え、ちょ…あの!イブちゃん!?すみません!説明を――」


 扉が閉まった。そこで俺とハクヤは恐る恐るアリアス様を見てみる。


「はあ…はあ…これからは楽しい毎日だ…ずっと一緒にいる……そうだ…」


「ドン引きってやつだね」


「メメメメメディロアさあああああんっ!」


「――お任せください」


 何処からともなくメディロアさんが降ってくる。理解し難い光景に言葉を失うが今回は諦める。そしてすぐにメディロアさんの後ろへ回る俺とハクヤ。


 結局、無事には物事が運ぶことの無い俺達だった。  

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