第125話 大嘘である
協会内部客人部屋にて――
「……………久しいな」
「………………最近顔合わせましたけど」
張り詰める空気。
「……おいハクヤ、何か空気を和ませるような一言頼む」
するとハクヤは親指を立てその場で立ち上がり俺達を見回した。そしてアリアス様―エルス―イブ―俺と指差して言った。
「ふむ……美人さん、美人さん、一人飛ばして偽ゴブリン」
「よし、部屋を出ろ。ボコボコにしてゴブリンの巣に捨ててきてやる」
「追撃は任せるの!」
「ままま待ちたまえ!これは有名な掴みを異世界風に―――ッ!?」
――――ハクヤのソファーは消えた。
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
「さて、早速握手して仲直り……と言いたいとこなんだが、まずは双方の話を聞こうと思う。エルスからどうぞ」
見せかけだけの仲直りなど意味が無い。問題解決の為には全て吐きだして互いが納得することが大切だ。
「そうですね…。ではお姉さま、率直に言います。私は聖女になるつもりはありませんしこれ以上その為の教育を受ける気も毛頭ありません」
「ならばこれからどうすると言うのだ」
「冒険者として生計を立てます」
「……エルス、お前が家から逃げそこの少年達と共に冒険者稼業に見を投じていたのは知っている。だが冒険者はかなりの危険を伴う職業だ。騎士などと違って固定給が出るわけでも無く不安定になる。それで困った経験もあるんじゃないか?」
「それは……」
エルスがこちらを見る。こんな正論を叩きつけられたらどうしようも無いが。
「それでも!続けていきたいんですっ!」
「少年、君はどうだ?エルスと共に冒険者を続けていく自信はあるか?」
「無いし普通に嫌ですけど」
「ワタルさんッ!?」
「――とまあ…少し前までだったらこう答えてたんですけどね」
「……何か?」
アリアス様の鋭い眼光が俺に突き刺さる。
「ま、今はエルス達と冒険者を続けてみようと思ってます。元はただの旅人なんでいつポックリ逝くか分かりませんけど」
「モンスターとの死闘……。最後まで勇姿は見届けるさ」
見てないで助けてくれよ。
未来の自分を想像しながら震える俺だが気付けばアリアス様は腕を交差させ、俺のことをまじまじと見ていた。
「そうか。エルスとは随分と信頼を積み重ねてきたのだな」
「そうですよ!私達程信頼と絆が強固なパーティーはいません!」
大嘘である。
「……そんなとこです」
オルとファーの娯楽に付き合ってるなんて言えねえ流れだな。
「そうか……。そこまで…」
何となくこの人からエルスを取り上げたら危ない気もするが年齢的には旅立ってもおかしくない。逆にこれはアリアス様の成長の時期であるのかも知れない。
「最後に…。私はお姉さまの物じゃないんです。歴代最高の聖女?私はなりたいと一ミリと思いませんッ!理想を押し付けるのはもうやめて下さい!」
そうエルスが言い切った後には少しの静寂が部屋を包んだ。そして、
「と、エルスの言いたいことはこんなもんだな。次はアリアス様どうぞ」
さて、次はアリアス様の番。ここでは本心を聞きたいところだ。
「……そうだな。まずはこの場を作ってくれたことを感謝する少年」
「大したことはしてませんけどね」
「夜中に二人で密会したぐらいですよね」
「僕の部屋で暴れたね」
「朝起きたらおにーちゃんがいたの」
謙遜が意味を成さねえや。
落ち着いて頭を下げるアリアス様に若干怯みつつも俺達は姿勢を改める。
さあ、解決の時だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます