第123話 ゾンビ、オバケ論争

 真っ暗な協会の中、俺とエルスは自室を目指して歩みを進める。


「ったく…暗いな。場所が場所なだけに気味が悪いぞ」


「一応私の実家なんですから気味が悪いとか言わないで下さいよ……」


「お前だってアンデットが出そうだとか言ってたじゃねえかよ」


「私はシスターですよ?アンデットはエサですよ!エサ!怖くないですし、現れたなら浄化するだけです」


「元気になりやがって……」


 偉そうに胸を張るエルスに若干の安心感を覚えるも褒めたりはしない。むしろ今までの苦労を考えたら4回くらい引っ叩いてもいいんじゃないだろうか。

 

「ちなみに光源を作るスキルみたいなのは習得していたりしないのか?」


「これでも英才教育を受けて来た身ですからもちろんあります!まあ…その英才教育から逃げたのが私ですけど―」


 これまでの所作等はその英才教育ってやつの賜物なんだろうな。

 声を大にして言いたい。大失敗です。


「……ともかく光源スキルはあるんだな?どうして使わないんだよ?」


「ワタルさんは蒸発したいんですか?」


 聞くんじゃなかった。


「フラッシュってスキルありますよね。聖職者の方が欲しい!って人気のやつです」


「……そんなのもあったような。でも確かスキル玉から受け取るスキルはランダムだからシーフや戦士が受け取っちゃう可能性があるんだよな」


「はい、一応私は持っているんですけど―」


「光が強すぎて蒸発すると…」


 コクコクと頷くエルス。


 意味ないどころか命にかかわるのか。


「正確には焼け爛れるらしいです」


 きゃきゃきゃ却下ッ!凄く却下ッ!!


「安心してくださいよ。私が失われるのは世界の損失ですからそんな事しませんって!」


 うちのパーティーは自己評価が高いやつばかりで困る。


 階段を上り、知っている廊下が見えてきたところでエルスは立ち止まった。

 エルスの部屋はこの先だったな。おやすみなさいとでも切り出すに違いない。ここは格好良く手でも振ってやるとするか。


「ワタルさん……」


「おう」


「その…言いにくいんですけど…」


「そんな恥ずかしがる必要も無いだ―――」


「ワタルさん、手一本増えました?」


「……は?」


 エルスの目線が下へと下がった。俺は恐る恐る自分の肩へと手を伸ばしやけにひんやりとした部分に触れる。


「なななななな何か!誰かが俺の肩に手を置いてるぞ!」


「お、落ち着いて下さい!ほら…せっかくですから握手でも――」


 してたまるかよッ!


「うううう後ろに誰かいないか!?ハクヤとかやりそうだよなッ!!!」


「誰もいませんって!あんまり幽霊さんを刺激しないで下さい!」


「うるせえ!!幽霊はお前にとってはエサなんだろ!?早く浄化してくれよ!」


「ゾンビとオバケは違いますよ!」


 真夜中の廊下で巻き起こるゾンビ、オバケ論争。これだけの声を上げていれば協会の誰かしらが起きてしまう気もするがそれはそれで助かる気もする。


「分かった。大人しくするから一変浄化魔法かけてくれ!」


 するとその手は何か危機でも察知したのかポンポンと俺の肩を叩く。


「ひいいいいいいいいっ!!お怒りだ!これ影の中に引きずり込んでくるタイプの幽霊だろッ!!」


「い、今浄化しますから動かないで下さい!セイクリッド・ホーリーレイッ!」


 使用魔法はセイクリッド・ホーリーレイ。

 少し前にエルスに聞いた限りでは確か神聖殲滅魔法の中ではジェミニより威力の高い上級魔法だったはずだ。

 しかし、


「きききき消えてないぞ!!」


「知りませんよ!あ、ピースしました!幽霊のクセにピースしました!煽ってますよ!」

 

 おちゃめかよ。


「……待て、なら少なくともアンデット、幽霊の類いじゃないんじゃないのか?」


「ええ…でも…」


「ほら、世の中にはゴーレムを動かしたりと遠距離から何かを操るスキルがあったりしただろ!」


「……は、はたいてみてください」


「ま、任せろ」


 俺は肩の上でピースするふざけた手に向かって自らの拳を振る。もちろん通り抜ける事も無く弾け飛んだ手は壁へ打ち付けられた。

 更にその手はすぐに原型を失って……


「……溶けた?」


「氷?だったんでしょうか?」


 あっという間の事に理解が追い付いていないが一つ確信出来ることはあった。


「……こんなイタズラ誰が出来ると思う?」


「もう何となく理由も分かってきてしまったんですけど……」


 駆け出した俺とエルスはある人物の部屋へ特攻。明かりがついていることを確認し扉を開く。

 中には椅子へと座り優雅にコーヒーを飲む黒髪勇者。


「おや、バレたのかい?夜中にワタルが廊下を走る音が聞こえてね。目を覚ましたついでに少し試したいことがあ―――」


 ハクヤへと迫りくるのは2つの拳だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る