第122話 闇の中
「ワタルさんは確か兄弟がいないんでしたよね?」
「兄弟?まあ、そうだな。父さんが家を出てから母さんが再婚することも無かったしずっと一人っ子だった」
エルスはそれを聞くと近くのソファーへ腰を下ろし再度口を動かした。
「私はずっとお姉さまと一緒で…、少なくとも小さい頃は楽しく過ごせてた……と思います」
思う。この言葉が出てきてしまったのはエルスの母親であるセリシアさんが当時家に殆どいなかったからだろう。
「でもいつからか…お姉さまと話が合わなくなってしまって――」
「……セリシアさんの話か?」
エルスは小さく頷く。そして呟くように、声を小さくして言った。
「そうですね…。私はずっとお姉さまがお母さまを見て『私の理想はお母さまの様な人になることだ』と言っていたのが不思議でならなかったんです」
「と、言うと?」
「だっておかしいじゃないですか!お母さまは休みも少くて…家にも全然帰ってこれなくて…それで――」
だんだんと声が大きくなってしまっていた事に気付いたのか口を閉じるエルス。
おおよその見立ては間違っていなかったらしい。予想通り問題となっているのはアリアス様とエルスのすれ違いだ。
「ま、つまり寂しかったってわけか」
「……恥ずかしながらそうなんでしょうね。で、でもそれだけじゃないんですよ?ワタルさんは聖女の引き継ぎについて知りませんよね?」
「そりゃ…」
「聖女は血の繋がった後継者が成人すると自動的に入れ替わります。娘が二人いれば長女へと…」
エルスは現在16歳。アリアス様は2歳上ってとこだろう。
「でもその時には既にお姉さまには騎士になりたいという夢が出来ていたんです」
「最初にお前が言ってたな。押し付けるだの騎士だのって」
「……はい、丁度私には夢がありませんでしたし、お姉さまは騎士になるために私に聖女の座を押し付けたかったのだと思います」
「なるほど…」
ここか。アリアス様はエルスを深く…いや気持ち悪いレベルで愛している。押し付けるなどという感情はまず間違いなく無い。
この徐々に考えがズレていっている感じ…
「アリアス様の本心が知りたいな」
「どうかしました?」
ひとまずチャンスはここしかない。
「いや、少しアリアス様に頼み事されててだな……。明日時間作ってくれるか?」
「……全部話しちゃいましたしね。分かりました。その代わりワタルさんもいてくださいね、約束ですよ?」
「ああ、任せとけ」
俺達は静かに指切りをするのだった。
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「さて、部屋に戻りたいとこなんだが…」
「それって今日は朝まで一緒にいたいってやつですか?」
身の程を知れ変態シスター。
「……冗談です。けど何か?」
ぴょこっと横から首を出すエルス。
「実はここへは雌豚の誘導で来たんだよ」
「今は雌豚ちゃん、ワタルさんの頭の上で寝てますけど……」
長い話は生後間もない雌豚にはキツかったのか気付けばスヤスヤである。
「あのときはピカピカ光ってたんだけどな。何か知らないか?」
「私も目を潰されましたし何か知っていたら教えたいとは思うんですけど……。あ、でも似たような話で女神の眷属である獣は身体が輝いていたとかなんとか―――」
答え合わせかよ。
「……あのとき雌豚の事聞かなかったのは失敗だったな」
「まあ、でも大丈夫ですよ!私が部屋まで案内します」
「お、ありがとな」
俺は感謝をしつつ部屋のドアを開け、廊下へと足を踏み出し――
「――暗くねえか?」
来るまでは現在頭にいる女神の眷属とやらがピカピカ光っていたが今は収まっている。
「深夜なんですから当たり前だと思うんですけど…。ちゃんと光源をですね…このように持って――」
説教をするようにエルスが近くのランプを持つとその瞬間火が揺らぎ……煙と化した。
「……ご臨終です」
「代わりになるものは?」
「……あるって言ったら嬉しいですか?」
「まあそうだな」
「無いです」
くたばってくれ。
「はあ…光源無しで戻るしかねぇか。エルス案内してくれ」
「わ、分かってますよ!……本当にアンデットが湧いてきそうな暗さですね」
協会にアンデットが湧いてたまるかよ。
意図せず始まった闇の中の協会徘徊であった。
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