第121話 慌てふためく
深夜、俺は何かの違和感を感じベッドから上半身を起こす。俺の体に巻き付くように張り付くイブを剥がし、ベッドから降りると原因は明らかとなった。
「……雌豚?」
違和感の正体は雌豚。普段から黒光りしている胴体がやけにピカピカと光っている。
しかも薄っすら金ピカに……。
一瞬突然変異でもするのかと思ったが雌豚は出生はともかく見た目は普通のクワガタ。
突然変異などというモンスター特有の現象はありえないだろう。
「雌豚、こんな遅くにどうした?腹でもへったか?」
今日は夕食のカルパッチョをムシャムシャと食べていたのだが―――
(大…丈夫……でも…何かに……引き寄せ…)
健康上問題はなさそうだが話を聞けば何かに引き寄せられる感覚があるらしい。
「こんな真夜中にピカピカされてもな…。取り敢えずその引き寄せられる方向に行ってみないか?」
(……うん……行く……よ…パパ…)
このまま発光されて寝られなくなるのも困るので解決手段を模索してみようと思う。
音をたてないようひっそりと部屋を出た俺は雌豚が飛んでいく方向へと歩いていく。
が、またしても違和感が増える。
「……雌豚、お前の放つ光…だんだん強くなってないか?」
(……気の所為……だよ…)
「いや、確かに光が強――」
俺が雌豚に触れようとしたとき、突如遠くから何か歌のようなものが聞こえてきた。
男の声では無いな。エルスの部屋がある方向でも無い。それにつられて雌豚はその歌が聞こえる方向へ飛んでいく。
「お、おい!」
俺の声が聞こえないのか雌豚は素早く廊下をカーブするとスピードを出す。次第に歌声との距離は近くなって……
「……この辺だな」
場所としては一階の端辺りだろうか。教会内を案内してもらった際には通らなかった場所だ。
絶賛発光が強くなっている雌豚は更に奥へ進むとふと止まる。
「…?雌豚?」
もはやとてつもない輝きで雌豚の方は向くことが出来ないが理由ぐらいは分かる。
「……この部屋だな」
(中に……誰か…いる……よ」
中には影が一つ。この歌声は――――
「……エルスだろ」
っ!?と慌てて逃げ惑う音が聞こえるが時すでに遅し。俺は雌豚を掴み室内へ強行、慌てふためくエルスの目の前に突きつける。
「ひ、ひやあああああああああああああ」
旗から見れば除霊でもしているのかと勘違いされそうな状況だが今回の相手は生者である。
それから暫くして雌豚の発光も収まりエルスを捕獲。手をカーテンで縛って尋問開始という訳だ。
「さて、まずは何から聞いたものか……」
「ワタルさん、流石にSMはお断りです」
結構余裕あるなこいつ。
「はあ…、取り敢えずどうしてここに?相当落ち込んでるように見えたが出てきても良かったのか?」
「……喧嘩は日常茶飯事でしたから」
「慣れてるとでも?」
「いえ、落ち込んだらここに来るんです」
するとエルスは薄く笑い部屋を見渡した。
「ここ、お母さまのお部屋なんです」
お母さまと言うとメディロアさんに話を聞いた『セリシア』さんの事だな。部屋を見渡せば確かに大人の女性が使うような物がチラチラと。しかしやけにホコリを被っている。
「……そっか。セリシアさんはもう…」
「はい、他の国に男たくさんつくって今でも各地を転々としてます」
聞いてた印象と180度違えや。流石に別人だろ。
「私が協会にいた頃は一年に一度ムチを持ったお母さまと四つん這いの男の映像が送られてきていました」
議論の余地もなくエルスの母親だろこれ。
映像は例の召喚勇者だな。既に理想の母親像は砕け散ったが話は進んだ。
「お母さまについてはメディロアさんからですか?」
「ああ、他にも過去のことも少し」
「……なら、もう隠す必要も無いですね。何から聞きます?」
そう言って少し微笑むエルスだがまだぎこちない。籠城レベルの喧嘩の後、そう簡単に心が落ち着くわけがないのだ。
「……アリアス様が心配してた。いや、この際だから言うが仲直りしたい、だとよ」
「いつものお姉さまですね」
「そもそも俺は喧嘩の内容も深く聞いちゃいねえんだ。早く会いに行ってやれよ」
エルスの顔が曇る。
「ワタルさん、過去の話って何処まで聞いたんですか?」
「ん?そうだな、セリシアさんが聖女のお仕事で忙しくてってぐらいだな。あとは小さい頃のお前も見た」
「剣聖神話で言う妹に監禁される辺りまでですかね。小さい頃の私は見ることができたのは松代まで誇れますよ!」
そんな剣聖神話は知らないし、ロリエルスを見たところで誇れもしないが?
「なら少し昔話をしてもいいですか?」
「……構わないけど」
真夜中、エルスの話が始まった。
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