第124話 全ては丸く収まる
「「吊り橋効果!?」」
俺とエルスの声が重なる。
それを聞いたハクヤはいかにも人を馬鹿にしたような顔で近くにあったコーヒーを手に取った。
「ああ、僕はイタズラであのスキルを使ったわけじゃないのさ」
「……説明だけさせてやる」
「説明が終われば用済みですし処分します」
聖女の血を受け継いでいるとはまるで思えない言葉。
だが当人のハクヤは至って落ち着きながら話し始めた。
「僕が元いた世界には吊り橋効果というものが存在していてね。まあ、簡単に言えば「不安や危険の多い場所においてその時一緒にいる人に恋愛感情を抱きやすくなる」というものさ」
「……俺はお前らに惚れてねえけど」
「ははは!まるで僕達のパーティーが不安や危険の多い場所みたいに言うじゃないか!」
地雷原だろ。
「あの…それでその吊り橋効果をどうして今のタイミングで使おうと思ったんですか?」
「ワタルの走る音で目が覚め、トイレへ行ったときの事だね。ワタルとエルスが生まれたての子鹿の様にビクビクと歩いているのが見えて思いついたのさ」
生まれたての子鹿の様にビクビク歩いていたかは審議が必要だが起こしてしまったのは悪いな。今思えばドタドタとうるさかったかもしれない。
「で、思いついてどうしたんだよ?」
「理由は分からないが一緒にいるならチャンスだと思ってね。恋仲にすれば全ては丸く収まるんじゃないのかい?」
「……どんな風に?」
「ワタルとエルスが恋仲になる。そしてワタルは現聖女様と繋がりがある。あとは何やかんやあって仲直りというわけさ」
こいつの脳はまだ寝ているようだ。
「はあ…そんなん下手すりゃバッドエンド直行じゃねえか」
「……私と恋仲になる時点でハッピーエンドは免れないと思うんですけど」
「それをバッドエンドだといってるんだが」
「………?」
「………?」
「………ッ!?」
とまぁ…残りは俺VSエルスVS巻き込まれたハクヤの壮絶な死闘が繰り広げられたわけだが、結局その音によって目覚めたイブの一振りで全員が吹き飛んだのはナイショだ。
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「身体が痛え……」
目覚めた俺の目に最初に映ったのは俺の足元で白目を剥くハクヤ。そして俺の頭の上に張り付くイブ。プラスで扉付近に大の字で寝ているエルスってところか。
更には辺り一面物が散乱しており、俺達とハクヤの部屋を繋ぐつい最近修理した扉には大きな穴。
誰か俺を助けてくれ。
「ハクヤの部屋……だよな」
昨日無事に自分の部屋へ帰ることが出来た記憶がない。
「ん……おはようございますなの」
「お、おはようイブ。よく眠れたか?」
「元気なの!」
そりゃ結構なことで。
俺は一度イブと砕け散った壁を通り抜け、部屋へ戻る。そして、着替えさせ、着替えてから再度ハクヤの部屋へと戻ってきた。
「……イブ、昨日の夜のことはどのぐらいまで覚えてる?」
「夢で大きなおにーちゃんが出てきたの!」
何かもう可愛いからいいか。
俺がハクヤを叩き起こすと同時にイブがエルスを起こしたようで一同が部屋に集う。
「夜這い……じゃなくて朝這いかい?」
「夜這い……じゃなくて朝這いですか!?」
仲間のアホさに涙が止まらない。
そんな仲間を見て思うがもうエルスと俺達の間に壁は無い。いつも通りふざけた会話が広がっている。
次はアリアス様とエルスの溝を埋める番のようだ。
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