第120話 平均知能
「生きてるかい?」
「……プライドはズタズタだけどな」
イブに抱きかかえられた俺はハクヤの温かい目に見守られながら窓の方へ目を向ける。
高さは約8メートル程だろうか?ハクヤやイブはともかく俺が着地してたら間違いなく死んでたぞ。
「イブ、助かった。それにしてもエルスの奴危ねぇな。どうしたものか……」
「ワタル、エルスもそこは考えていたみたいさ。君を落とした直後地面にクッションを投げていたよ」
「クッション?」
「これなの!」
嬉々としてイブが何かを持ち上げた。
それはそれは薄く綺麗な刺繍のされた美しい布で―――触り心地も良く―――
ハンカチじゃねえか。
「こんなもんクッションにしてどう助かれってんだよッ!!」
「待ちたまえ。クッションとして投げられたのなら何か特殊な機能が付いているのかもしれないよ」
「……機能?クッションになるようなか?」
「ああ、勇者である僕の見立てによればこのハンカチには『エンチャント』が付いていると考えられるね」
なるほど。エルスも性癖こそアレだが頭が悪いわけではない。彼女なりに俺のことも少しは考えてくれていたのかもな。
「で、そのエンチャントってのは?」
「少し見ているといいよ。こうして地面に敷して……イブ、高くからこれに着地してみたまえ」
「らしいぞイブ、頼んでいいか?」
「お任せなの!」
直後地面を蹴ったイブは協会の壁へと張り付きそこからダイブ。見事足をハンカチの敷かれた地面へ叩きつけた。たちまち砂煙が上がり地面が抉れる。
あまりの衝撃に俺は思わず後ろへ後ずさるがハクヤは未だ余裕の笑みを浮かべ砂煙の中を見ている。
「……だ、大丈夫なのか?」
「安心したまえ。ウィンドアロー」
魔法によって砂煙は次第に吹き流されていく。数秒で肉眼で地面を確認することも可能になった。
「ふっ、このようにイブが高くから落ちてきてもエンチャントが付与されていることによってハンカチは落下のダメージを吸収し無事に――――無事に……」
「……消えたけど」
「ないないなの」
イブの着地した地面は砕け、広範囲に大きな穴が空いているのみ。
「消失のエンチャント……と言うわけだね」
それで通るかバカ。
「どう見ても消し飛んでんじゃねえか!」
「計画的殺人だったみたいだね」
未遂だ未遂ッ!
我がパーティーの平均知能が低いことが残念で仕方ないがこれも大きな力の代償。代わりにそちらで活躍してもらうしかない。
「……普通に釣り合わねえや」
結局2つの作戦が失敗に終わった俺達は部屋へと逃げ帰りアリアス様を交え戦犯決めの討論を始めるのだった。
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くだらない討論は終わり、明日の計画である『雌豚潜入盗聴作戦』を決めた俺達は各自部屋へと戻り身体を休める。
現在は夕飯を終え、ベッドでイブを寝かしつけている最中だ。
俺はこれから作戦の見直しや確認をするが子供を夜ふかしさせるわけにもいかない。
「明日も早いからな。早く寝るんだぞ…」
「ん、お話してほしいの」
「お話?」
「なの!パパはいつもお話してくれたの」
そういえば俺も小さい頃は親に寝かしつけてもらう際、話を聞いていたっけ……。
「そうなのか。イブのお父さんはどんな話してくれていたんだ?」
「風の妖精フールとフーラってお話なの!」
なんと可愛らしいことだろうか。聞いたことのない物語だがイブの出身地では有名だったりするのかもしれない。
「そっか、どんな話だったんだ?」
「まず旅人さんが歩いてるの!」
イブは楽しい記憶を思い出したのか嬉しそうに布団を握り話し始めた。
「そしたら風の妖精さんのフールとフーラが来て――」
ほう…。
「旅人さんを少しずつスライスしていくの」
「誰かこの娘に幸せな話を頼むッ!!!」
イブが大人しく眠りにつくまで思いつく限りの心優しい物語を聞かせる俺だった。
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