第115話 姉妹揃って

 部屋に押し入ってきたハクヤを正座させたところでメディロアさんはアリアス様を見つめ、話し始めた。


「皆様はエルス様の生い立ちについて何かお聞きになりましたでしょうか?」


「いや、エルスの出身についても知ったのもこの街に着いてからで……」


 今まで質問するタイミングはあったのだが尽く話を聞くことは出来なかった。初めはハクヤとイブの自己紹介を聞いている時だっただろうか……。


「確かイブが机壊したんだよな」


「……ハクヤなの」


「捏造さ。イブ、それを堂々と神様の前でも言えるかい?」


「神様なんていないの」


 それ教会で一番言っちゃ駄目なやつだろ。


「主は天界より皆様を見守っておられます」


 娯楽として見てるらしいですけど。


「主よ、僕にさらなるチートを授けたまえ」


 座ってろ。


 ぐちゃぐちゃな室内だが話はようやく一段落ついたので進む兆しを見せる。


「と、まあ…詳しくは知らないんです」


「無知の集まり、と」


 メモるな、そして言い方を変えろ。


「では初めから説明しましょう。アリアス様とエルス様が姉妹であることはご存知かと思います」


「ま、まあ…それも驚きましたけど」


「それではこちらをご覧下さい」


 メディロアさんはポケットに手を入れると中からリモコンのような物を取り出した。


「ホームビデオでございます」


 リモコンが操作され、自動的にカーテンが閉じる。更には白い幕が俺達を取り囲んだ。

 ダンジョン最深部と言い、ここと言い、辿り着くのが困難な場所ではとてつもない技術をみせられるものだ。

 驚いているとパッと幕が光る。


「これは、今から約10年前の映像となっております」


「これって――」


 映し出されたのは幼いエルスが庭で遊んでいる様子。地面を見て呑気にヨダレを垂らしている。


「まるで天使だな。顔はともかくどうしてアレに育っちまったんだ」


「エルスおねーちゃんが綺麗なの!」


「教育者にはガツンと言いたいところだね」


 見事に意見が一致する中、映し出された幼女エルスが座り込んで何か始めた。


「……かご?すみません、あれって何をしてるんですか?」


「飼っていたカマキリを解き放ち、捕食される虫を眺めて興奮しています」


 とんでもねぇクソガキだよ。


「おや、どうやら現聖女様もやってきたようだね」


「長い剣を振ってるの」


 子供の時から性癖の片鱗を見せるイブに対して突然写り込んできた少女アリアス様は熱心に横で剣を振ってる。

 そしてそんな幼女エルスのそばに一人のシスターさんが、


「あれメディロアさんじゃないですか?」


「お気付きとは、流石でございます」 


「そりゃ分かりますよ。今とまったく姿が変わってない――ッ!?」


「お蔭さまで若く見られます」


 俺の頭でメディロアさんの種族がヒューマンでは無い説が推され始める。


「それで…何やってるんですか、あれ」


「秘密裏にエルス様の吐いた息を集めろとのアリアス様の命令を遂行している最中かと」


 姉妹揃って歪みすぎだろ。


「昔のアリアス様はエルス様の吐いた息を吸わなければ寝付けないとワガママを仰っていましたので」


 目眩がしてきたな。


 そんな俺の目に映る光景は少し変わっていって――


「次の映像は教会内だね」


「美味しそうなケーキなの!」


 視点が次々と移動していく。ケーキ、果物に野菜…厨房か?


「こんな映像どうやって……」


 映像とは確か、かなり大きく高価な機械を設置してようやく撮れるもの。教会内を回っていくこの映像は本来撮れるはずが無い。


「確か召喚された勇者様のスキルだったかと存じます」


「勇者……」


 前にエルスは勇者召喚を見たなどと口走ったことがあったはずだ。あの時は流されてしまったが本当の事だと考えていいだろう。

 そんな次々と判明していく謎、そして――


『エルス!アリアス!久し振り!元気にしてたの〜!こっちにおいで!』


 優しく元気そうな声が聞こえてきた。映像には金髪、そして若干エルス似の顔を持つ美しい女性が映り込む。


「……あれって」


「はい、エルス様とアリアス様の産みの親であり、先代聖女であらせられるセリシア様でございます」


 駆け寄るエルスとアリアス様。これ以上無い仲睦まじい光景。だが映像はそこで途切れてしまった。


「終わり…だな」


「ふむ、一般的な仲の良い家族だね」


「幸せそうだったの」


 俺達の印象としては良い家族。傍から見てもそれは変わらないだろう。


 ここからの変化、話は始まったばかりだ。

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