第114話 醜い方は
「――ああ…嫌だ、それは駄目だ――」
「……これ別人?」
「そっくりさんなの」
「僕でも目をそらすレベルだね」
俯きブツブツと喋るアリアス様にドン引きの俺達だが頼まれた以上断るわけにもいかない。
「あのそろそろ――」
俺がアリアス様に質問を投げかけようとした時だった。
「アリアス様、落ち着いてくださいませ」
ガシャンッ!!バリバリバリ!!!
大量の窓ガラスの破片と共に入室してきたシスターさんが何かをアリアス様へ投げつけた。
「―――――ッ!――ッ!」
声の出ない悲鳴を上げる俺だが動じない者も2名。可愛らしい方はうるさかったのか耳に手を当て俺へ寄りかかり、醜い方は首をコクコクとさせながら拍手をしている。
「素晴らしい、満点の入室だよ」
「お褒めに預かり光栄にございます」
「―――ッ!!!―――――――ッ!!!」
「ワタルも声が出ないほど感動しているよ」
「なんと…!練習したかいがありました」
会話できないタイプ増えちゃった。
恐る恐る見ると突撃してきたシスターさんが投げたものは小さな枕。中心には四ツ首でドレスを着飾ったクマが刺繍されている。
「控えめに言ってセンス無しだね」
「頼まれても使わないの」
大方低評価な模様。だがアリアス様の様子がおかしい。先程までとはまた違い、虚ろな目で枕を抱き締めている。
「……吐息も聞こえるな。まるで興奮した時のエルスみたいな――」
「あちらはエルス様が幼少期に使用されていた枕でございます」
突然入ってきたシスターさんだが敵意の様なものは感じられない。ここは話を聞いて見るべきだろう。
「エルスの…ですか?」
「はい、嗅ぎますか?」
やっぱ頭のネジ外れてるわ。
余計に気になることが増えてしまった。
「と、ともかく……アリアス様について大体は察することが出来る」
「シスコン、と言ったところだね」
幼少期のエルスが使用していたと言われる枕を抱き締め、ヨダレを垂らしながら横になるアリアス様を見ると流石姉妹だと再認識するな。
「でもどうして今は仲があそこまで悪くなってしまったんですか?それと、貴方は……」
「申し訳ございません。私としたことが自己紹介を失念しました」
意図的に忘れるな。
淡いピンク色をした髪の毛にスラッとしたスタイル。若干不思議なオーラを放つそのシスターさんはこちらへ向き直り笑った。
「私、アリアス様専属護衛を努めておりますメディロアと申します」
専属護衛。高貴な身分の人々にはありがちだな。思い返せば最初にこの教会を案内してくれたのもこのシスターさんだった。
「道理であんな身軽に突っ込んできて…」
「私もアリアス様が小さい頃から鍛えてきていますので」
「へぇ……ん?失礼ですが歳は?」
メディロアさんの見た目はおよそ20歳程である。エルスが16歳、アリアス様も見た感じそこまで離れていないはずだ。小さい頃からとなると――
「……歳ですか。あえて濁させてもらいますが5歳から200歳ではあります」
魔女の類か何かか?
「ふっ、僕と同じだね。貴方とは気が合いそうだ」
誰とでも気が合いそうだな。
などと話していたのも数分。今一度状況を確認したい俺は強引に話を戻す。
「それで、話は戻るんですけどどうしてエルスとアリアス様はここまで喧嘩してるんですか?その…アリアス様はエルスのこと……」
「好きですよ、狂気と思えるほどに」
「大胆な告白だね。結婚式の挨拶は僕に任せてくれたまえ」
ふざけたことを言っていたマセガキを部屋から蹴り出したところで俺は更に聞く。
「今のでそれには気付きました。けど、なら何で今二人はこんなに…」
「……少し昔話をしましょうか。第一章『生命の誕生』」
生まれてから話せ。
この扱いずらさ、まるでハクヤが二人に増えたような感覚だった。
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