第113話 小さな天使
「少し妹について話がある」
そう肩を叩かれ振り向くとそこにいたのは聖女アリアス様。今にも倒れそうな顔色で立っている。
「ア、アリアス様!どうしてこちらへ!」
シスターさん達が次々に駆け寄るがアリアス様は気にすることなく俺の腕を引いた。
「ちょ――」
「すまない、場所を変えようか少年」
半ば強引だがそれだけ重要なことなのだろう。俺は言われるがままに足を動かした。
「すまん。ハクヤ、イブ、少しここで待っててもらってもいいか?」
「少しとはどのくらいだい?」
脳内年齢一桁かよ。
「ご褒美があれば頑張れるの!」
「そうそうそれだよっ!イブは偉いぞ。時間空いたら一緒に観光行こうな」
嬉しそうに頷くイブの頭を撫で、俺は再度アリアス様の方へ歩き出す。だが後ろからは何やら未練のある視線が、
「ワタル――」
「……何だよ」
「次は人に生まれるといいね」
出荷じゃねえんだぞ。
✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦
先程から一言も言葉を発さないアリアス様に着いていくこと約五分。俺達は長い廊下を抜け、客室の様な場所へ到着する。
そこでアリアス様はようやく口を開いた。
「座れ、そんなに畏まらなくてもいい」
「…はぁ、すみません…」
「ならば失礼するよ」
「おにーちゃんの上なの!」
無礼すぎて心臓の音が鳴り止まえねえや。
「てかどうして着いてきてんだよッ!!」
俺の目の前では現在、ソファーの上で胡座をかくハクヤ、そして俺の膝にちょこんと座るイブが確認される。
「良く考えてみれば仲間脱退イベントだからね。主人公である僕が欠席するわけにはいかないさ」
「またよく分からない話を――」
こうなっては仕方ない。ハクヤが着いてくるならば一人残されたイブも来るに決まっている。
「……大人しくな」
「おくちチャックなの!」
膝に乗る小さな天使に一言添え、俺はアリアス様へと向き直る。
「結局三人なんですけど大丈夫ですか?」
「パーティーメンバーなら構わない」
「違う……と言ったらどうなるんだい?」
この悪魔だけ追い出せねえかな。
「エルスのパーティーメンバーは既に確認済みだ。騙されはしない」
「そ、そうですよね。仲間が失礼しました!それで話って――」
俺を呼ぶ際、アリアス様は『エルスの事で話がある』と言っていた。この状況を鑑みるにアリアス様が何かエルス籠城の原因を知っていることに間違いはないだろう。
「……すまない、正確には話と言うよりは頼みがあって少年、君を呼んだ」
「頼みですか?」
「ああ、だがそんなに複雑な事を頼むわけでもない。私の願いは一つ、『エルスとの仲直り』だ」
「……仲直り」
まさか聖女様からこんな依頼を受けるとは思わなかった。やけに顔色が悪いようだがこれも喧嘩が原因なのかもしれないな。
「もしかしてエルスが部屋に籠もってるのって――」
「私の責任……だろうな。昨日の夜、エルスを訪ねたのだが少し言い合いになってしまった…」
更に力が抜けたように俯くアリアス様。
昨日の昼間の様子を見れば経緯は何となく伺える。何か伝えるべきことを伝えきれておらず、気持ちがすれ違っているのだ。
「……分かりました。頑張ってみます」
これ以上二人で話し合ってもすれ違い続けるだけだ。仲介人が必要となる。
「よし、ならまずはアリアス様がエルスの事をどう思ってるのか―――」
「――てしまう――――あの――」
「え、その…どうか…しました?」
何か様子がおかしい。俯いたアリアス様は何やらブツブツと呟いている。
「駄目なんだ。このままではエルスに嫌われてしまう。あの子が逃げ……駄目だ、駄目だずっとここに……汚れてしまう…駄目だ」
「呪文…じゃないな。…これって」
「ふむ、人には誰しも裏表があると言うからね。これが彼女の秘密みたいだ」
「……勘弁してくれよ」
骨の折れそうなクエストの始まりだ
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