第116話 まともな感性
映像を観終えた俺は頭に疑問を浮かべ部屋をウロウロ。イブがトコトコと着いてきたが床で蠢くアリアス様を踏みそうになっていたので持ち上げて歩く。
「……母親かぁ。そのセリシア様ってどんな人だったんですか?」
「セリシア様は……家族愛に溢れた御方だったかと。聖女として遠方へ赴くことが多く満足にエルス様やアリアス様に会えない中、毎日欠かさず通話をしておりました」
ギルドカードにもある機能だな。少し前まではパーティーメンバーと離れることができなかったため使い所が無かったが解呪された今は何か使えるかもしれない。
「遠方?随分と優秀だったんですね」
「その逆でございます。セリシア様は元々聖女適正がとても低い御方でしたので直接その地まで赴き祈る際に時間がかかりました。ですので帰ってきてはすぐに出発と忙しくされていたのです」
聖女とは血筋で決まるものだ。いくら適正が低くとも血が繋がっていれば素質はある。
そうして聖女は継がれてきた。
「アリアス様は、それでも会う際には元気で優しい笑顔を見せてくださるセリシア様をとても慕っていて――」
「……エルスはそんな忙しいセリシア様を見て聖女という役目が嫌になった、みたいな」
「十中八九そうだろうね。僕も聖女とは勇者の冒険へついて行き覚醒の鍵となる存在だと思っていたよ。まず、田舎に生まれた勇者が劣等感を持つ場面から始まるんだが――」
後でいいか?
ふたりともセリシア様が好きだった事に間違いは無いだろう。しかし忙しいセリシア様に対しての感情が違ったわけだ。
アリアス様は尊敬。そしてエルスは、
「寂しかった……か」
「お見事です」
「礼には及ばないさ」
誰だお前は。
結論には辿り着いたが解決方法が見つかったわけではない。ひとまず話を聞くためアリアス様を起こそうとする俺達。
「その…話聞きたいんでその枕離してもらっても……」
「…………」
反応は無い。
メディロアさんによればあの状態になってしまったアリアス様は数分後与えたものを取り上げることで元へ戻るそう。若干強引だがエルスの枕を引っ剥がせばいいはずだ。
「よし、そぉっと……」
「変態さんに見えるの」
「絵面が最悪だね。性別を変えてきたまえ」
ヤジがうるさい。
「――を送ろう」
「……ん?」
アリアス様の口が動――
「死を送ろう」
アリアス様と目が合った瞬間、全身に身の毛もよだつような感覚が生まれる。その直後と事だ。言葉を発す間もなく目の横をレイピアの薄い尖端が通過する。
そしてもう片手は握り締められ――
「りりりり凛々しいッ!!!」
寸前でヘリオルグランテストが発動するも俺は黄金の盾出現の反動で後ろへ倒れる。
「ワタル様!……ご褒美でしたか?」
俺の求めてた言葉と違うんだが。
「ろまんちっく?だったの!」
まともな感性を持つ者がゼロ!
「大丈夫かいワタル?」
「ハクヤ……」
「ナイストライさ。次行ってみよう」
「ノーナイストライだ。二度と近付いてたまるかッ!!!」
俺が白旗を上げたことでハクヤの番。まるで番犬のように枕を守護するアリアス様へゆっくりと近付いていく。
「お、落ち着いていけよ!」
「取る場合のコツは『瞬きの瞬間に取る』でございます」
コツ要素を教えろ。
「そのまま串刺しになればいいと思うの」
「なるほど、ならば僕は気配を消すことで対応するとしようじゃないか」
ハクヤは意外にも起用で、足音を立てずにアリアス様へと近付いていく。
三歩…、二歩…、一歩。
もう一歩踏み入ればレイピア圏内といったところで止まる。目が合ったようだ。
「……ふむ」
「どうした?大丈夫か?」
「人の大切なものを奪うのは良くないね」
寝返るな。
「勇者ともあろう者が眼力だけで打ち負かされてどうすんだよッ!?」
「考えてみれば僕は勇者だからね。簡単な仕事はお願いするとしよう」
ハクヤも白旗。イブに関しては誤ってやり返してしまう可能性があるのでノー。
「……私の出番でございますか」
メディロアさん、出撃である。
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