第111話 恥でしかない
朝が来た。見慣れない天井に豪華なベッドが視界に映る。それに横には――
「ん……むにゃ…おにーちゃんが……」
何か夢でも見ているのだろうか?イブの寝言を聞くに俺がいるようだが……。
「…最後の一人なの……」
んな壮絶な話あってたまるかよ。
「ほら、朝だぞ!イブ、起きろー」
少し無理やりだが掛け布団を引っ剥がし頬を摘んで声を掛ける。基本俺より早く起きているイブだがたまにはこんな日があってもいいだろう。
「ん……、おにーちゃん……なの」
「ああ、おはようイブ。取り敢えずハクヤ達が起きてるか見てくるから帰ってくるまでにパジャマから着替えてるんだぞ?」
「むにゃ…分かった……の…」
未だ夢の中って感じだな。返事をしつつもコテンと二度寝をしてしまうイブ。度重なる野宿で疲れていたのかもしれない。
「まったく、人の足を握り締めてぐっすりとしやがって……」
そんなイブの頭を軽く撫でると俺は握られている足をゆっくり引こうと――
「………ん?」
足が動かない。少し力を入れて引くも握られている足はぴくりとも動かない。
「お、おいイブ!ちょっ、持ち上がらないのはおかしいだろっ!!!」
ベッドに張り付いているのかと疑う程イブはびくともしない。
本来、これだけならばイブが起きるまで待つことで解決するのだが……若干焦る俺の耳にその一言は唐突に聞こえてきた。
「ほねつきにく……?……初めて見たの…」
「ぎゃああああああああああッ!!!!」
もう分かる。絶対に分かる。この流れは絶対に危ない。急いでイブを――
「イブ!俺だっ!それは夢だッ!!」
「むにゃ……あげない…の」
その足は元々俺のだが。
「待て!おい!誰か!誰かあああああ!!」
と叫んだ次の瞬間だ。何か違和感を感じ後ろの壁を振り返り――
ドゴオオオオオオンッ!!!
突如その壁は凄まじい音を上げ、俺の真横を通り過ぎていき反対側の壁へと激突。
隣の部屋と繋がる壁。状況理解にそう時間は掛からなかった。
「おはよう、ワタル。足は無事だね」
「……ようハクヤ、一歩横へズレていたら俺そのものが無事じゃ無かったところだ」
「ははっ!そこまで過剰に感謝されることでも無いさ」
耳付け替えてくれ。
だが、幸いにも今の音でイブも夢から覚めてきたのか「ん…」と声を漏らしながら俺の足を離した。
「よし、まあ…助かった、ハクヤ。今のうちにエルスの様子見に行こうぜ」
昨日は大丈夫だと言っていたがエルスとアリアス様にはまだ大きな『壁』がある。
「その辺も気にしていかないとな…」
そんな事を考えつつ、俺がハクヤと共に部屋を出ようとしたときだ。
「ワタル様、イブ様、お食事がご用意出来ましたのでお持ちしました」
「あ、すみません。ありがとうございま―」
部屋へと足を踏み入れたシスターさんの視線はある場所へ向けられる。
俺は忘れていた。
現在、俺達とハクヤの部屋の間には『壁』が無いのだ。
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「シスターさん、キレてたな」
「ツンデレの真髄を見たさ」
結局、吹き飛んだ壁は朝ごはんを持ってきてくれたシスターさんに見つかり、ツンでもデレでもなく普通に怒られてしまった。
「これまた賠償金とかじゃねえよな?」
思い返してみれば金の心配は要らなくなったもののお城の修理代を全て返した訳でもない。このまま逃げた扱いにされてないことを祈るが……。
「僕達はエルスの仲間、つまり身内みたいなものさ。心配は無いよ」
死ぬほど都合が良いな。
「イブは大丈夫か?寝起きだろ?」
「ん、お腹空いたの…」
今、俺達はというとエルスを呼びに部屋へ向かっている途中である。シスターさんがお怒りの中、再度目を覚ましたイブも本人の要望のため一緒だ。
「そろそろだな」
位置としては大して遠くもないため、あっと言う間に目の前には着いた。俺が代表してドアを叩くも、
「反応は無いな」
「寝てるの!」
不思議でも無い。久し振りに自身の部屋で眠れたのだから仕方ないだろう。
「起こす方法ぐらい考えてあるしな」
「中には入れないの」
確かにそうだ。だが――
「……エルス!ハクヤが凄い苦しんでるぞ!お前の性癖にクリーンヒットだろ!」
すぐにハクヤは何かを察して、
「……勇者である僕があああああ!!!!」
傍から見れば凄まじい奇行ではあるがエルスならばこれで釣れるわけだ。
少し時間が経てば……、
スッ――
「ん?」
恥でしかない芝居を初めて数秒。エルスの部屋の扉の下から一枚の紙切れが。
「何だよ。起きてるなら起きてるで――」
紙切れの内容を見て俺は固まった。
「どうしたんだい?」
「なの?」
ハクヤとイブも覗くがこれは大問題。
「ふむ、『気分じゃないです』…まずいね」
そう、エルスの籠城が始まった。
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