第110話 この状況を楽しんで

「よし、全員集まったな。これより緊急会議を始める」


「「「おー」」」


 荷物も置き、一段落付いた俺達はゆっくりと座って円を描く。中心にはトランプが並べられており、各自が目線で追っている。


「まさか、トランプまでこの世界へ伝えられているとはね…。発明チートの夢まではまだ遠いみたいだ」


「……よく分からんが話していいか?」


「僕の機嫌を損ねない程度にならいいさ」


 お前はどこの皇帝だよ。


「まあまあ、ワタルさんが消えた事も気になりますし……」


「エルスおねーちゃんは木になるの?」


 話が進まねえや。


「―――っほんッ!取り敢えず俺の話をするからな!」


「多数決で決めよう」


 お前らは一体俺に代わって何を話そうとしてんだよ。


 結果、謎の多数決で勝利した俺は光に包まれた時を思い出しながら語り始めた。イブに長い話を聞かせても寝てしまうとのことで手元ではトランプを使用したババ抜きとやらも同時進行している。


「――――それで目を覚ましたときには既に見知らぬ空間にいてだな……ほいっ」


「夢とかでは無いんですか?……はいっ」

 

「後で見せようと思ってたんだが、小さな箱も貰ってるんだよ」


「なるほど……」


 エルスは箱を見ると何か考えているような素振りを見せ、口を閉じた。


「そこにいたのが神様を名乗る二人の女の子でさ――」


「二人かい?」


「ああ、確かオルとファーって子だな」


「今一番大きい勢力がオルファ教ですね。この教会もそうですし」


 オルとファー、合わせてオルファってとこだな。どこか安直だがどのようにして伝わってきたかは謎である。


「そこで言われたのが俺は『勇者のお目付け役』ってのらしいこと。そしてハクヤが本来の勇者とは別に召喚された勇者だってことだな」


「やはり僕は特別な存在だったみたいだね。今から魔王城に突撃してくるよ」


 行動力の化身やめろ。


「あのな…特別とは言え、お前が呼ばれたのはオルとファーの娯楽の為だぞ?」


「娯楽…ですか?」


 若干信じ難い顔をしたエルスが聞いてくるがこればっかりは信じてもらわなければいけない。


「ああ、あいつらが言うには勇者は真面目でつまらない。だから今回は正規の勇者とは別にもう一人、自分達を楽しませてくれそうな勇者を召喚したらしい」


「なるほど、つまり僕に期待しているという訳だね」


「ポジティブに考えるとそうだな」


 今もこの状況を楽しんで見ているのかもしれない。


「それで、呼ばれた理由とかって聞かなかったんですか?」


「ん?それなら―――」


 俺は言葉に詰まった。『これからも仲良くして欲しい』このお願いを伝えても良いのだろうか?

 

「ワタルさん?」  


 これがエルス達の人生を縛ってしまわないかは少し心配なところではある。俺も現在はまとめて指名手配中だからお願いを承諾したわけで、全てが解決したとき―そのときに俺達は一緒にいるのだろうか?


「ワタルさん!」


「ッ!……っとすまん」


「それで一体理由は何だったんですか?」


「ああ…これからも―」


「これからも真の勇者ハクヤ様を支えてくれってやつだね」


 割り込んで来たのはハクヤ。そんな行動に少し肩の力が抜けた俺は笑みを見せ言った。


「……ははっ、そんなとこだな」


 思わぬ助け舟だったがあながち間違いでもないだろう。オルとファーには悪いが黙っておくことにする。


「普通と言うかなんというか…あ、私あがりです!」


 ババ抜きで最初に上がったエルスは例の箱へ目を向けた。そして手に取り言う。


「これ開けてもいいですか?」


「うーん、地上で開けろとしか言われなかったし良いんじゃねえか?」


「了解です!紐を解いて――」


 大した大きさもない箱。中から出てきたのは一枚の紙切れ。


「読んでくれ」


「えっと、『天界では監視上言わなかったけど期間を過ぎても干渉する方法はあるから。プレゼントを大切に』だそうです」


 プレゼント?そして、監視とは他の神様のことだろうか?


「私達には分かりませんね」


「僕がプレゼントさ。幸せを運んできたよ」


 厄災の塊が何言ってんだ。


 文章の意味は謎だが分かることはこれからも何か干渉をしてくる可能性が高いってことだな。


「ふっ、いつかは僕もその神様とやらに会ってみたいところだね。……あがりさ」  


「イブもこれで無くなったの!」


「負け……だな」


 ババ抜きは俺の敗北で終わり終了。そのまま部屋で食事を終えた俺達は解散となった。

 

「また明日なの!」

 

「おやすみなさいイブちゃん」

 

 エルスがイブに別れを告げ、自身の部屋へと戻っていく。


「……もう大丈夫なのか?」

 

「……私を舐めないで下さい。案外強いもんですよ!」


 笑顔を浮かべたエルスは明らかに昼間とは違う。元の状態へと戻ったようだ。


「ま、ならいい」

 

 こんな調子だし明日は少し休暇としてエルクラウンを観光しても良いかもな。

 そんな事を考えながらも俺とイブはハクヤとエルスを送り出し、そのまま深い眠りに付く。


 だが次の日、エルスが部屋から出てくることは無かった。

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