第107話 妙な背徳感

「……催眠魔法」


「そんな訳ないでしょ」


「女神様に無礼ですよ!まったく!」


 突然の事に催眠、幻惑の類いを疑うがどうやら違うようだ。


「ならどうして俺はこんなところへ…」


 目の前にいるのは白く、綺麗な翼の生えた二人の少女。女神様とかなんとか言っていたが今のところ真偽は不明だ。

 そんな疑い深く見る俺に二人の少女は顔を見合わせ――


「……ヒューマン貴方、王冠は?」


「何だよ急に、種族名で呼ばれると変な気持ちになるんだが」


「いいから、王冠は?」


「え?解呪…したけど」


 そうだ、俺はシスターさんのバッサラークで呪いの王冠を解呪して……次の瞬間――

 まさかとは思うが……。

 

「……俺は、死んだのか…?」


「違うわよ。私達が呼び出しただけ」


「間違えちゃって恥ずかしいですねー!」


 後ろの煽りカスをどうにかしてくれ。


「――って呼び出したッ!?俺を?」


「…うるさい」


「あ、ああ…すまん」


 気不味い雰囲気が流れるも今大切なのは状況把握。俺はそんな雰囲気を破るよう、二人に問いかける。


「なあ、それならお前らが誰なのかぐらい教えてくれないか?正体不明の相手と話すってのもあれだろ?」


「女神相手にナンパはまだ早いですよ!」


 頼むから俺と会話をしよう。


「ファー、からかうのもそこまでにして」


 ここでようやく注意が入った。『ファー』と呼ばれた少女はつまらなそうに頭の上で手を組むと注意をした少女の方へ戻っていく。

 

「……自己紹介ぐらいしてくれるんだよな」


「そうしないと進まないからよ」


 最低限の返答を貰い納得した俺はその場に座ると少女達をじっと見つめる。

 すると二人はこちらを向いて、


「はぁ…オルよ。二度は言わないわ」


「私はファーですよ!称えてください!」


 髪の長い方が『オル』短い方が『ファー』らしい。二人共見た目は小学生程度だが少し接近されると軽く気圧されてしまう。これが神様のオーラってやつなのかもしれない。


「そっか、ありがとな。それでようやく最初の話へ戻るんだが―――」


「どうして呼ばれたか知りたいんでしょ」


「あ、ああ…」


 何か先回りされている気分だが俺の聞きたいことは間違っていない。


「端的に言うけど私達が貴方を呼んだのはそろそろ……言わなきゃと思ったから」


「そうですね!だから王冠には少し改良をして渡しましたよ!壊されたらここへ来るように……って!」


 少しオルの方には間があったな。


「……意味が分からない。そもそもどうして俺が――」


「ある理由があるの」


「理由……」


 オルは鋭い目で俺を見るとふぅ…と息を吐き手をこちらへ向ける。


「これを見て」  


 その瞬間、何も無いはずの空間に突如紙が出現した。

 その紙にはいくつかの線が引いてあり…、


「これは運命の―」


「あみだくじじゃねえか」


「……そうとも言えるわ」  


 そうとしか言えないが?


 物凄く嫌な予感が漂ってきた。このふざけた展開はまさに……。


「それでね、理由って言うのは…」

 

「二人で勇者選んだあとにあみだくじでそのお目付け役を決めようとしたんですよー。そしたらなんと!」


「……俺が当選したとか」


「半分正解よ」「もう半分も正解です!」


 それはもう正解だ。


「え、何だ?俺はあみだくじで選ばれたからあの王冠被らされたわけか!?」


「……そう。ファーが作ったの」


「私が真心込めて作りましたよ!」


「んな馬鹿な……」


 膝から崩れ落ちる俺にファーが笑い掛けてくるがそこで俺はようやく思い出した。あの王冠、やたら説明にムカついたが理由としては神様直接のプレゼントだったわけか。

 

「嬉しかったですか!」


 いいえ。


「……でも、その事だけ伝えるために俺を呼んだのか?」

  

「……違う」


 横で楽しそうにしているファーとは違い、オルは先程までとは打って変わって何だか少し恥ずかしそうにしている。

  

「じゃあ本題は?」 


 焦れったくなり二人の元へ少し近付く事にした。


「ま、待って!言うから……」


 どんどん顔を赤らめて後ろへ下がっていくオルを見ると何だか妙な背徳感があるな…。


「こ、これからも…」 


「これからも?」  


「――っ!復唱しないで!次やったら貴方の運命の赤い糸斬るから!」


 脅しのレベル高すぎだろ。流石の俺も跪いて許しを請うぞ。

 と、俺が恐れおののいている間にもオルは恥ずかしそうに何か話そうとしている。


「オルー!言っちゃいましょうよ!」


 そして、ファーが囃し立てた次の瞬間だ。  

 オルは覚悟を決めたのか俺に最大限近付くとこう囁いた。


「こ、これからもあの仲間の人達と冒険してほしい……そ、それだけ!」

 

 それはそれは子供のようで可愛らしい、そして、不思議なお願いだった。

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