第108話 つまらない

「これからも仲良く?」


「そ、そう…」


「ハクヤ達とか?」


「…そうっ!」


 神様にしては随分と安いお願いだ。勝手に運命でもイジれば解決しそうなものだが…。

 

「あ!疑問があるみたいですね!限界を迎えたオルの代わりに説明してあげましょう!」


 そう言って目を光らせながらグイグイと接近してきたのはファー。オルの後だと性格の差で扱いにくくて困る。


「説明って、何か事情でも?」


「もちろんですよ!天界の決まりは沢山あるので一部省略しますが……簡単に言うと時間がもう無いんです」


「時間…」


「はい!説明していなかったと思うんですけど……私達は勇者担当の女神なんですよ!」


「勇者担当?神様ってのはウジャウジャいるもんなのか?」


「そんな虫みたいに言ってると亡くなられた際にしゃもじかヴォルガバグルへ転生するよう死者担当へ言いつけますよ!」

  

 選択肢に救いが無さすぎだろ。後半のとか明らかに人ならざるものじゃねえかッ!!  

 ……いや、しゃもじも人じゃねえな。


「と、まぁこの様に神様自体は沢山いるんです…!毎日何万と亡くなられる方がいるのに神が少ないと行列ができてしまいますから」

 

「……そう考えたらそうだな。お前らはその中でも勇者を担当するって事か」


「小さな脳でよくできました!」


 ……帰ったら神に効く魔剣とか探そう。


「それでですね…。一応天界でも決まりがありまして―」


「……私が言う」


 何か思ったことでもあったのか突如話に割り込むオル。それを聞き何かを察したファーはニコッとして一歩下がる。


「私達は勇者を選抜して送り出す。その後にお目付け役を決めて引き合わせるの」


「それがハクヤと俺って訳だろ?」


「そう」


 それにしては引っ掛かる事もある。


「…なら、ルイ達はどういう扱いなんだ?」


「……勇者」


「ちょっと待て。お前言ったよな?勇者を選抜してお目付け役と引き合わせるって!どうして初めはハクヤだけだったんだ?」


「は、ハクヤは別だから…」


「別って―」


「えっと、口下手なオルの代わりに簡単に説明するとですねー!哀川さん達は勇者、そして士道さんは私達が追加で送った勇者と考えていただいて!」


 なんてやつ追加してくれてんだよ。


「そもそも追加って…なんでそんな事―」


「つまらないんです」


 ファーは即答する。笑顔なだけに俺は若干身の引き締まるような感覚に陥った。


「……勇者は基本生真面目でつまらない。だから私とファーでハクヤを勇者として呼び寄せたの。それだけ」


「そうですよ!お目付け役の貴方と引き合わせたのも面白そうだったからです!貴方達がパーティーを組んでからオルは毎日毎日楽しそうに見てて…」


 組まされた、な?


「ちょっとファー!やめて。私はただ退屈しないのが良かっただけ」


 クールぶっているが既にその皮は剥がれている。俺は少し気恥ずかしい思いをしながらも口を開いた。


「……なるほどな。これからと仲良くってのは離れられるとまた退屈するからか。ならお得意の運命操作でもすれば解決なんじゃねえのか?」


 運命をいじられている側として良い気分では無いがもしこの運命でなければ無かった経験や出会いもある。

 そう、出会い……経験……ふむ…。


「ろくなの無いから解散してもいいか?」


「だ、駄目!」


「……私達に強制はできませんけどね」


 と、そんな事を言ったのはファーで…。


「……さっきと言ってることが違うぞ」


「いえいえ、同じですよ!ただ、勇者の運命へ干渉するのには制限があるんです!」


「そう、神が干渉しすぎるとバランスが崩壊する。だから運命をいじるのも好きなように……とはいかないの」


 更に深彫すると正確には勇者に関わるものの運命らしい。俺も対象である。


「だからせめて長く一緒に居てくれるように呪いの王冠…そしてそれが破られたらここへ飛ばして脅すと……」


「……人聞きの悪いこと言わないで」


「…ったく分かった分かった!実際俺もあのパーティーを抜けようとは思ってねえよ」


 指名手配中ですから。


「……そ、ならいい」


 何だかんだ可愛げのある神様だ。俺はそんなオルに背を向けると少し進んで止まる。


「よし、これで話はいいか?俺もそろそろ帰らねえと。あいつらが待ってるからな」


「残念ですねー!ここにいる間は時間の概念が無いので待ってはいません!」


 マジで次来るときは背中に魔剣携えて来るから覚悟しとけよ。


 最後まで締まらないがこれも運命なのかもしれない。

 

「では魔法陣展開しますねー!」


 俺とオル、ファーの間にも小さな魔法陣が現れた。放つ光は俺がここへ来るときと同じものだ。


「……約束は守って」


「出来るだけな」 


「出来なかったらヴォルガバグルです!」


「……強そうだしもうそれでいいよ」


「エビの仲間ですよ!」  


「……仲間だーいすき」


「なら良い。最後にこれ、地上で読んで」


 渡されたのは小さな箱。中には一枚の紙が入っているらしい。


「……ああ、分かった。それじゃあな」


「早く行って」


「怪我にはお気を付けて!」


 可愛らしい二人の少女に送られて俺は地上へと帰っていくのだった。

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