第106話 曖昧な紙切れ
「こちらへどうぞ」
その場を静めるためにエルスとアリアス様を引き剥がした俺達は現在呪い王冠を解呪するため、シスターさんの案内に従って本部の廊下を歩いている。
「なあ、本当にこの王冠取れると思うか?」
「いざとなれば僕が引っ張ってあげるさ。首が取れても化けて出ないでくれたまえ」
「イブも引っ張るの!」
解呪が失敗すれば俺は首がもげるらしい。
俺がもしもの時どう化けて出てやろうか考えている中、とある部屋の前でシスターさんが立ち止まった。そしてチラッとハクヤたちの方を見て…
「ここからなんですが……ワタル様お一人でお願い致します」
「俺だけですか?」
「はい、ここから先には国宝、そして神器と言ったものが多数存在するため冒険者の方を複数入れるのは禁止されております」
なるほど、確かに冒険者が複数人で襲ってきたら対処に困る。安全性を追求した結果こうなった訳か。
「分かりました。おい、お前ら大人しく待ってるんだぞ?」
「さらばワタル、生きてたらまた会おう」
「お別れ悲しいの…」
悲壮感出すのやめろ。
「……はぁ、じゃあ行ってくるからな」
イブの隣で俯いているエルスを気にしつつもこうして俺はシスターさんについて行く。
ハクヤとイブの反応からしてまるで死地へ行く気分だがその辺は割り切るしかない。
部屋の中は新たな通路に繋がっており、壁には幾つもの国宝、神器が飾られていた。
「想像以上に凄いな……でも…」
一つ気になることがある。
「解呪にこんなところまで来る必要あったんですかね?」
「…そうですね。先程アリアス様に確認を取ったのですが…その呪いの王冠は少し効果が高いように感じる……と」
そのへんの見極めは流石現聖女様と言ったところだな。
そうした間にも歩みは進み、少し先に何か明るい部屋が見えて来た。床にはかなり大きな魔法陣があり、何か大切な儀式に使う部屋だと言うことが分かる。
「こちらにお座りください」
シスターさんに告げられ、俺は流れるようにその場へ正座をする。
「は、はぁ…これでどうでしょう?」
解呪には少し大袈裟な気もするが俺が無知なだけかもしれない。ここは流れに身を任せて―――
と、その時だ。俺が目を閉じようとした際、ふと長い何かが目に入った。
「……ストップで。それは?」
「はい?呪断刀バッサラークですが……」
「呪断?それは呪いを斬るって事ですか?」
「そうですね。この神器は女神オルファ様が創ったとされており、我々に授けられた際には『呪いも何も全部斬ればなんとかなる』と紙切れを残されたとか――」
曖昧な紙切れ残すんじゃねえよ。
「もちろん人は斬れませんよね」
「はい、過去数件ほどしか」
あったら駄目だろうがッ!!!
と、俺が逃げようとするもそれに気付いたシスターさんはすぐにバッサラークを振り上げ無慈悲に振り下ろした。
「ちょ、危ねえ!」
もちろん俺の声などが届くはずもなくシスターさんの持つバッサラークは見事俺の頭を両断。床へ王冠の落ちる音が聞こえる。
「………っ!………?出来ました?」
「はい、見事真っ二つに……ってあの」
「ん?」
シスターさんの顔色が変わった。その違和感に気付いた俺はすぐに顎を下げる。
「何だよこれッ!身体が光って…」
光り始めてから大した時間も経たずに俺の身体は段々と消えていく。
「申し訳ございません!私もこのような事は始めて―――――」
もはやシスターさんの声も聞こえず意識も段々と……消えて……いく。
こうして、俺はこの世から完全に消えた。
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――――――――起きて
――――――起っきなさーい!
何か呼ぶ声が聞こえる。キンキンとした声に落ち着くような声……女の子だろうか…。
「なんなんだ…」
意識の戻った俺は目を腕で拭ってからゆっくりと身体を起こして――
「……知らない天井」
「こっちよヒューマン。これ以上私を待たせるのならこれからの人生での合計所得額を減らすわよ」
「せっかちさんですねー!神様らしく余裕のある態度で〜こう……んー出来ないです!」
ますます騒々しくなる現状に俺はゆっくりとそちらの方を向いた。
「あ――」
途端に言葉に詰まる。
……だが待ってほしい。今回に関してだがこれは仕方のない事だと俺は自信を持って言える。
「……ジロジロ見ないで」
「一目惚れなんですか!そうなんですね!」
そこにいたのは紛れもない、背中に白い翼の生えた二人の少女だった。
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