第99話 コミュ力の鬼

 俺達がダンジョンから転送された場所はある花畑だった。見たこともない色とりどりの花が美しく咲き誇っている。


「……ダンジョン突破のご褒美ってとこか」


「あ、ワタルさん!この周辺にある花は全部触れると肌が溶けるのでご注意を」


 さっさと燃やそう。


 無事ハクヤのフォーエバーフレイムによって焼け野原となった花畑を抜け、ユウガの魔力探知を頼りに街の近くへ戻ってきた俺達は現在ルイ達へ弁明の最中だ。


「―――って訳でな、お金の為には仕方なかったんだよ!ほら、こんな可愛いイブが飢えていたら可哀想だろ?」


「お腹空いて死んじゃうの〜!」


 わざとらしくお腹を抱えて地面を転がり回るイブ。そんな演技に騙され懐から干芋を取り出したハルカに感動する俺だがここは譲れない。


「う、うん…僕達が黙っておけば良いことだもんね…」


「ふっ、もしこのことを話せば僕が直接城へ攻め込むと覚えておくといいよ」


 今日からこいつ首輪付けとかないか?


「だ、大丈夫だよ士道君!僕達は約束を必ず守るからさ!落ち着こう…」


 もはや荒ぶる獣の様な対応をされているがこちらとしては都合が良い。ルイ達には悪いがハクヤは切り札として取っておこう。


「じゃ、よろしくな」


「うん、また何処かで」


 こうして別れた俺達は互いに時間をずらして街へ入った。


「いやー大冒険でしたね!」


「巨大なドラゴンが百体現れたときは死を覚悟したね」


 記憶を改ざんでもされてんのかよ。


 疲れもあるが俺達が今の向かっているのはもちろんギルド。本命のお宝換金のお時間である。

 だがその前に……


「お前達に言っておかなきゃいけないことがあるんだ」


「……結婚してくれ…ですか?」


 お願いだから脳を取り替えてきてくれ。


「そのぷろぽーずお受けしますなの!」


 ……条約に引っ掛かるってレベルじゃ済まないんだが。 


「僕に男と結婚する気は無いよ」


 くたばれ。


「そうじゃねえよ…。お宝の売り方の話なんだがな?分けて売ろうと思う」


「全部は駄目…なの?」


「ああ、この街の周辺にあるダンジョンは基本踏破されてるものばっかりだ。そして新たに見つかったあの隠しダンジョンは入ることが出来ない」


「なるほど!つまり普通はお宝を手に入れる手段が殆ど無いと……」


「そうだ、なのに俺達があの大量のお宝を売りに来たら怪しまれるだろ?それに説明だって出来やしない」


 これまでのことで面倒事に巻き込まれるのはもう十分だからな。その辺は慎重にいかせてもらう。

 俺達はゆっくりと換金受付へ向かった。


「お次の方どうぞ〜」


 そう呼ばれて受付へとやって来た俺達はあらかじめハクヤのアイテムボックスから取り出しておいた宝石を二つ並べた。


「大きいですね〜どちらでこれを?」


「ああ、数年前に買ったものなんです。お金に余裕が無くなってきたので売ろうと思って持ってきました」


 そして困ったように笑みを浮かべる俺。これ以上余計なことを聞かれないようにする高等テクニックだ。


「そ、そうなんですね〜。では一度宝石をお預かりします」


 宝石は後ろにいた鑑定士のお爺さんの元へ運ばれていく。俺達と受付のお姉さんとの間に気まずい時間が流れる中、流石コミュ力の鬼であるギルド職員、笑顔を絶やさず話し掛けてくる。


「そちらの方々はお仲間で?」


「妻です」


 出ました、名物余計な一言。


「じゃあイブもお嫁さんなの!」


 じゃあってなんだよ。


「ご、ご結婚なされてるんですね〜。可愛いお子さんで…」


 俺達の見た目はまだまだ大人とは言えないため、妻と言う言葉に驚きを隠すことが出来ていないお姉さん。だが一応結婚はできる年齢ではあるので疑ってはなさそうだ。

 もはや怒るのも面倒なので好きにさせておくとするか……。

 

「あ、そちらの男性は……」


「息子です」


 待て待て待て待て待て待てッ!!?


「そ、そでございますか〜」


 頭が混乱してしまったのか言語が怪しいお姉さん。フラフラとしつつも会話は止めないようにと頑張っている。


「お、お若く見えるんですね〜」


「あー、若くと言うかまだ16です」


「……?奥様は…」


「私も16ですよ」


「ず、随分と大きい息子さんで〜」


「ちなみに僕も16さ」


「なるほどなるほど〜」


 既にだいぶ厳しい事になっているがお姉さんにもう考える頭は残っていない。脳死で話を聞く機械になってしまった……。


「ちなみにこの子は私と息子の子供で将来は夫と結婚する予定です」


 畳み掛けんな。


「……冗談ですからね?」


 そう言って振り向くもそこにいたのは目を回して倒れるお姉さんだった。

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