第98話 後頭部にチョップ
「バカバカバカバカバカッ!!!」
俺はぬいぐるみをほっぽり投げ、エルスの肩をガクンガクン揺らすが本人に反省の意図は見られない。
「な、なんですか!?ワタルさんだってあんな事書かれていたら押しますよね!?」
「押すわけねえだろッ!もし爆発でもしてたらどうしてたんだよ!」
「……仲良く天国で暮らしましょ…う?」
あーあ、何も考えてねえや。
だんだんと顔が青ざめていくエルスに俺は落ち着きを取り戻しながら説教を始める。
するとハクヤが何かを嗅ぎ付けたのか様子を見にやってきた。
「何かあったのかい?」
「ん?ああ、エルスが『絶対に押すなよ!』って書かれていたボタン押しやがってな…」
「好奇心に従った素晴らしい行動だね」
「よし、上等だ。今日という今日こそお前らに安全な生き方ってもんを叩き込んでやる」
ハクヤとエルスを並べた俺は再度説教を続けるがはたまたその途中、イブがトコトコとやって来た。
手に持っているのは――
「ってそれあのぬいぐるみッ!?危ないから早く捨て…て……?」
「……?大丈夫なの!でも……」
イブが例のぬいぐるみを裏返す。と、同時に強烈な光が俺の目を襲った。
「おい!何か光って……目?」
「ピカピカなの!」
どうやらぬいぐるみの目から光が出ている様子。それが目に入ったのかハクヤとエルスも興味ありげに覗いてくる。
「ふむ…ワタル、それを壁に向けてみてくれないかい?」
気にはなるのでハクヤの言う通り目から出た光を壁へ向ける。その光は徐々に何かの形を作っていって……
「これは…人か?」
「人ですね!」
「ヒューマンなの!」
「僕以下の有象無象だね」
一人を除いて意見が一致した俺達は地面のデコボコにぬいぐるみを立て掛け突然映し出されたその映像を見る。
映像には一人の男映っていてニコニコとした表情で話している。だが肝心の音が出ていないので聞き取れはしない。
「音が…出ないな」
「叩けば直りますよ」
「お、それ初代勇者名言集に載ってた有名な言葉だな!ここでは却下とする」
「チッチッチッ、こういう場合は鼻に音声ボタンが隠されているのさ」
「まさかそんな……!」
ハクヤがぬいぐるみの鼻を押す。
「……音は出ないね」
ちゃんと嘘付くのやめろよ。
困っているとそれを察してくれたルイが奥から駆け付けてくれた。ミドリ達も不思議そうに着いてきたが様子は把握していなさそうだ。
「―――でさ。困ってるんだよ」
「そっか…困ったね他にボタンも無いし…」
「あら?皆んなして何言ってるのよ!こういう時は叩けば直るもんよ!」
勇者の元いた世界ってやっぱり野蛮な世界なんじゃねえか?
ミドリはそう言うとうさぎのぬいぐるみの後頭部にチョップをかます。
大体そんな事で解決したら苦労はしな――
『――ジジ…ジ……―それじゃあ最後にそのヒントだけ!一つは聖職者の楽園エルクラウンと言う街にあるから探してみてくれよ!」
……俺の負けです。
「ね?言ったでしょ!…でも最後しか聞き取れなかったわね。もう一度――」
終わってしまった映像を再度流そうとミドリがぬいぐるみへ手をのばすが、背中のボタンを押しても変化は無い。
「……」
「……壊したのか?」
「……瑠偉ぃ…」
今にも泣き出しそうなミドリからぬいぐるみを渡されたルイは焦りながらもフォローに入る。
「き、きっと一度きりの再生なんだよ!ワタル!君もそう思うよね!」
「お、おう…どっちにしろミドリがいなきゃ最後の部分の聞き取れなかったんだしな…」
とは言うものの俺がはっきりと聞き取れた単語は『ヒント』そして『聖職者の楽園エルクラウン』の二つだけである。それに前半は聞いてもいないので何のヒントかも分かりはしない。
……ただ、エルスがやけにソワソワしているのは確かだな。
エルスに詰め寄ろうとした俺だがそれはハルカによって阻止される。
「あの!あれ……」
ハルカが指差したのは先程までは無かった魔法陣。同時に出現した立て札には『出口だと思います』と書いてある。
いや、思いますって何だよ。
「や、やっと出口ですね!変なことは忘れて帰りましょう!」
「お腹すいたの!」
「ふっ、帰ったら拾った金貨や宝石を換金してパーティーといこうか」
随分と適応力の高い仲間に連れられ俺は魔法陣へと入り転送を待つ。ルイ達やハクヤがその場にあったまんがや機械の類いを持ち出しているが戦利品と言ったととこだろう。
こうして実感する。
俺達はダンジョンを踏破したのだ!
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