第100話 知らぬ存ぜぬ

 職員の方々に謝り、多額のお金を受け取ってギルドを出た俺達は宿へと戻る。

 受付で換金されたお金を受け取る際、何故かハクヤがぼったくりだと抗議していたが無理やり引きずってきたところである。言い訳としては「宝石がこんなに安いわけがない」とのこと。


「……なぁ、諦めろって!あの宝石であの大きさだったら100万ギルが妥当だろ?」


「いや、あの大きさは一億ギルはくだらないと踏んでいるね。きっと横領しているに違いないさ。勇者の制裁を――」


「はいはいそうだな。部屋戻るぞ〜」 


 宝石はダンジョンの宝箱や隠し部屋から度々発見される。確かに珍しいと言えば珍しいが一つや二つで借金が返せるわけがない。

 たまに出るこの常識の無さも他の世界から来たと思えば……いや、普通にムカつくな。


 

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「それで、これからどうします?」


 スプーンを口に持っていきつつ問いかけたのはエルス。実質借金も返済可能、つまりこの街へいる理由も無くなったわけだ。

 だが、


「う〜ん、借金の心配は無くなったがせっかくだし勇者祭ぐらいは見ていくか?」


「お祭り楽しみなの!」


 イブが嬉しそうに手を挙げる。

 本来ならばこの呪いの冠を外してもらうため一刻も早くこの街を出たいのだがここ最近やけに疲れることが多かった。この辺で少し楽しんでもいいんじゃないだろうか?


「私は賛成ですよ!勇者祭では珍しいものが売っていたりすると聞いていますし」


「僕も賛成さ。実質僕を崇め奉る祭りと言っても過言ではないからね」


 片方が妄言を話しているが取り敢えず二人共賛成とのこと。


「なら決まりだな。当日は稼いだ金使って大騒ぎするか!」


「付いていきますよワタルさん!犯罪の一歩先までなら何でもやります!」


 軽々とラインを越えるな。


「ふっ、ならば以前テキ屋の鴨と呼ばれていた僕の力を見せてあげるさ」


 二度とやるな。


「とにかく!それまではのんびりこの街で過ごすとしようぜ?」


「「「おー!」」なの!」


 ここ最近一番の清々しい声だった。


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「緊急!緊急!ここから東の街、ドワンウルゴの領主邸に賊が侵入したそうです!犯人は覆面を被っており、逃走中とのこと!」


「のんびり…ねぇ」


 翌朝、何か適当なクエストが無いかとギルドへ来ていた俺達は突如流れたアナウンスに動悸が止まらない。


「……顔は隠したさ」

 

「へ、変な動きしなきゃ大丈夫だよな……」


「そうですよ!幸いにも文章と特徴しか貼られてないみたいです!」


「特徴……?」


 何か不穏な気配もするがエルスは俺達を引き連れ張り紙の貼っている掲示板までやって来た。そこには『お尋ね者』と書かれた張り紙が複数枚確認できる。


「これですね。えーっと…男1、背中に大剣を所持。女1、美人でスタイルが良くお嫁さんに欲しいタイプ」


 初っ端から壮絶に盛るな。


「……でも背中に大剣か…。たまにそんな人も見るし多少は――」

 

 かさばる大剣を背中に固定しておくのは大剣使いのあるあるでもある。これだけなら知らぬ存ぜぬで通すことも可能だな。


「男2、覆面の上部が尖っていたことから何か王冠のようなものを被っていたことが推測される。女2、幼い子供、語尾はなの」


 逃げよう。


 無言でギルドを去る俺達は慌てて街の出入り口へ猛ダッシュ。いかにも怪しい存在だが情報が伝わったばかりで特に誰かが追い掛けてくる気配はない。

 そして後ろへ向かって一言……


「おい!ずらかるぞ!」


 今日ここに賊が誕生した。

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