第97話 まんがとやら

 デカ鳥も倒した俺達を祝福するかのように現れたその門は異様な雰囲気を纏いその場を困惑させる。


「あれは……『おめでとー!』?」


「ふっ、褒め過ぎだね」


 褒めてないし、お前に言ってすらないが。


「ワタルさんにも人の心があったんですね」


 俺は悪魔だとでも?


「イブにも言ってほしいの…」


「……おめでとう?」


「照れるからやめてほしいの!」


 凄え理不尽。

 

 ボスを倒した安心感からかやけに騒がしい俺達だが横では真剣な顔をしたルイ達が門を見つめていた。

 相変わらず真面目なやつらだな。


「……ルイはあれ入るつもりなのか?」


「うん、そうするよ。この部屋に扉は無いしあの門以外に出口は無さそうだからね」


 ルイの言っていることはまさにその通りであり、俺達としてもあの門以外にここから出る方法は知らない。


「……んじゃ、俺達も行くか」


「ファイトです!」


「頑張ってきたまえ」


 お前ら一生ここに閉じ込められてろよ。




✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦



「……それじゃあ開けるよ」  


 壮絶な罵り合いの末、勝ちをもぎ取った俺はエルスとハクヤを従えルイの後ろで待機する。


「うわぁ…」


 その様子を見ていたミドリとハルカが引き気味に横へ並んだ。後ろから苦笑いしつつユウガも歩いてくるが彼も本心はドン引きだろう。

 

「と、とにかくだ!罠かもしれないんだからお前ら油断すんじゃねえぞ!」


「おにーちゃんはイブが守るの!」


「なら私はイブちゃん守りますから!」


「ならば僕はワタルを盾にエルスを守ろうじゃないか!」


 あーあ、俺の番回ってきちゃったよ。


「あはは…それは本末転倒なんじゃ――とそうだった、今開けるよ」


 ルイが笑いながらゆっくりと門に手を掛け押していく。すると、まるで門と連動するように辺り一帯が揺れだした。

 

「せ、世界の終わりとかじゃないわよね?」


「大丈夫だと思いますよ久川さん。ここは多分僕達が転移した世界とは違う……異空間とでも言いましょうか?そんな場所です」


 ユウガが軽く説明する。


「異空間?どうして分かるんだそんなこと」


「簡単に説明すると僕の魔力探知が仕事をしてないからですかね…。本来なら仲間の場所を逐一確認出来るんですが城の皆さんの反応がここだと確認出来なくて……」


(バパ……本当…だよ……普通…じゃない)


 雌豚までもがそんなことを言う。


 だがこの部屋の正体を気にしている間にもルイは門を開く。そして次の瞬間だ。

 門から溢れ出た強い光が俺達を余さず包み込んだ。突然の事に目を閉じる。


「……ってこんなの聞いてねえ――」


 落ち着いたところで薄っすらと目を開く。


「ここは……元のダンジョン内か?」


「そうみたいですね。壁、床はダンジョン内と全く同じかと」


 またまた転移したのだろうか?俺達が飛ばされたのは元のダンジョン内の行き止まり。  

 ただ少し違うことと言えば――


「見てみて瑠偉!あれ宝箱じゃない!?」


「あの棚にあるのは漫画…かな?」


 初めに発見したルイ達が小走りで探し、辺りのものを物色する。

 

「……あ、これゲーム機!遥、これ知ってるわよね!」


 次々にミドリのテンションの上がる声がするが俺には分からない。

 

「……それ何なんだ?宝石でもないし…」


「あの棚の紙は何でしょうか?見たことない文字で書かれてますが……」


 戸惑っていると俺とエルスに対してルイが手を差し伸べる。


「あれは日本語だよ。僕達が元いた世界で使われていた文字。僕達からしたらこっちの世界の文字も変わらないんだけど……ワタル達から見たら違うみたいだね」


 にほんご?ねぇ…。彼ら勇者達の世界では文字が違うらしいが同じに見えるとは一体?

 ……既にハクヤがそのまんがとやらを漁りに行ってるのも気になるな。


「おにーちゃん!」


 ハクヤを見ていると突然イブが腕を引っ張ってきた。


「イブ、なにか見つけたか?」


「なの!これ可愛いの!」


 イブにぽんと渡されたのは少し大きいウサギのぬいぐるみ。その背中には『絶対に押すなよ!』と書かれたボタンが一つ。

 ……全然可愛くない展開来たけど。


「すまんがこれは……」


「あ、ワタルさんの言いたいことはわかってますよ!押せばいいんですね!」 


「は?ちょ――」


 僅か数秒の事だった。俺がこのボタンを見なかったことにしようと決めた瞬間、背後から厄介なシスターの手が伸びてきて――


 ポチッ!


 無慈悲にもボタンは押されたのだった。

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