第96話 それが命取り

 ハルカが貼ったバーチャルヴェールが機能している間、俺達は着々と準備を済ましデカ鳥へ向き直る。


「イブ、もう大丈夫か?」


「ばっちりなの!」


 満面の笑みでピースをするイブを見て俺の心臓はようやく安寧を取り戻しそうだ。


「ふっ、僕も気分が乗ってきたよ。このままでは辺り一帯を吹き飛ばしてしまうかもしれないね」


 お前のせいで俺の心臓は鳴り止まねえよ。


 などと言ってる間にハルカが焦り顔で皆へ声をかける。


「あの!そろそろバーチャルヴェールが解けます!」


「ありがとう遥。さて、次は僕達がどうにかする番だよね。ワタル、次の合図で作戦開始だよ」


「お、おう…!」


 遂に来たこの瞬間。バーチャルヴェールが切れた事に気が付いたのかデカ鳥はそのチャンスを笑うように空中へ舞い上がり、3つの首が一斉に攻撃準備に入る。


 そう、これを待っていた。


「今です!」


 エルスの声と共にルイ、ミドリ、ユウガが走る。少しして止まったユウガは懐から今持っている魔力弾を放つことができる小型の武器をもう一つ手に取るとそれをルイとミドリに向け言った。


「ヒーロー・ブースト!」


 放たれたオーラの様なものはルイとミドリへ直撃、そしてそのまま目を輝かせた二人は地面を蹴り腕を高く構える。


「グランエヴァクラッシュ――ッ!!!」


 初めにミドリのアゼルシオンによる横薙ぎがデカ鳥へ襲いかかる。その一撃は光線を放とうとした3つのデカ鳥の口を引き裂き停止させ、


「瑠偉!次ッ!」


「地面へ戻って貰うよ、ナインブラスター、ダブルバレットッ!」


 ミドリと交代するように上昇を止めたルイは両手に構えたナインブラスターをデカ鳥目掛け発射。弧を描いて飛んだそのレーザーは見事デカ鳥の両翼を捉え貫いた。


「キエェェェェェェェェェェッ!?」


 翼をもがれたデカ鳥が落下していくがここで一つ、予想外な自体が発生した。

 両翼をもがれたデカ鳥は落ちる前にとその大きな爪を振り上げ同じく落下するミドリへ狙いを定める。


「嘘!その体制から来るのッ!?」


「エルスッ!」


「わ、分かってます!ハイリスクアップ!」


 間に合うかは一か八か。バフのかかった俺は地面を蹴るとその反動で落下するミドリの元へ――


「間に合えよッ!かなり美脚ッ!!」


 腕を交差して目を閉じるミドリへ無慈悲に振り下ろされた爪がスレスレの部分で弾き飛ぶ。


「キェッ!?」


「セーフッ!あとは任せた!」


 突如滑り込んできた俺に気を取られるデカ鳥だがそれが命取りとなるわけだ。


「愛と正義の勇者、見参」


 だっさ。


「大人しく滅ぼされるの!」


 既に回り込んでいたハクヤとイブがスキルを構える。バフ継続中にミドリを安全圏まで運んだ勝利を確信して腰を下ろす。

 お礼を言われたが実際助けてもらったのは俺たちの方でもある。だがそんな戦いも、


「――終わりだな」


「勇者の剣レベル5」


「サテライトフィニッションなの!」


 両サイドから全力の火力を浴びたデカ鳥は一瞬で消失。ぶつかりあったスキルは巻き上がりながら天井を貫いた。


「……空が見えねえな。ここは本当に地下なのか?」

 

 少し気になることもあるが今は置いておいていいだろう。それより、


「ハクヤ!イブ!無事だな?」


「そうだね、今の僕は格好良かったね」


 お、頭やられたか?


「イブはへいきーらの〜!」


 ……こっちもか。


 はしゃぎながらフラフラと飛び込んでくるイブを抱き抱えると周りを見渡す。イブの様子に違和感はあるが見たところルイ達も特に怪我をしている様子はない。一件落着ってとこか。

 

「よし、ボスも倒したことだし――」


「あの…ワタルさん!あれ……」


「ったく何だよ締まりの良いとこで」


 エルスが指差し場所を目で追う。白い壁が続いていきそこには、


「……デカい門?」


 現れたのは『おめでとー!』と張り紙のついた大きな門だった。 

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