第95話 見えてきた勝機

「キエェェェェェェェェッー!!!」


 その大きな翼をはためかせたデカ鳥は甲高い声を上げ、こちらを凝視。

 対して俺はエレメンタルドライブによるデメリットで右手に激痛が生じ、その場で膝を落とす。


「……ってぇッ…そりゃ飛ぶよな……」


「ワタルさん!鳥も飛びますがそこでうずくまってると首も飛びますよ!」


 何てこと言うんだこいつは。


 だがそれも事実、デカ鳥は俺が動けないことを確認したのか鋭い爪を向け急降下。

 同時に滑り込んできたイブが受け流すが状況は変わらない。


「ワタルさん!鳥にハイリスクアップかけますか?」


「バカ!あんなのが早くなっちまったら動けなくなる前に全員殺されるぞ!」


「いざとなれば僕が限界突破で辺り一面を吹き飛ばして楽にしてあげるよ」


 実はこいつを先に倒したほうがいいんじゃないか?


 なおもデカ鳥の猛攻が続く中、俺の前で防御に徹するイブの顔が段々と曇り始める。

 当たり前だ、いくらイブとは言えこのレベルのボス相手に余裕で持ち堪えることは出来ないはず。


「だ、大丈夫かイブ!?」


「ん……れ…なの…」


 こちらを振り向いてモジモジしながら片手でデカ鳥の爪を弾くイブ。


「……れ?」


「ははっ!分かったよ!『使えねえ奴だなくたばれなの』だね」


 おい!引っ込んでろッ!!!


 この仕草、普段のイブの性格、間の悪さ等考えた俺の予想ではそんな当たり前の事では無い。こんな時はもっと重大な――

 

「……れ……トイレいきたいのっ!」


 あ、こりゃまずいや。


「おおおおおお落ち着け!!深呼吸だ!意識を逸らすんだ!そ、そうだ!嫌いなやつの顔を思い浮かべてどうにか…」


「……の!……の…うぷっ…気持ち悪いの」


「ぎゃああああああああ!!!」


「僕の美しい顔でも見るかい?」 

 

「失せろ元凶ッ!」


 デカ鳥からの攻撃が続いている事を気にする余裕も無く、トイレの話で精一杯な俺達は増々厳しい状況へと移り変わっていく。

 余裕…嬉しそう…いや、気持ち悪い笑顔でこちらをまじまじと見ているシスターもいるがやつは絶対に許さない。


「えへえへへ〜私こんなにグッとくる表情のワタルさん見るの初めてかもしれません!イブちゃんの限界近い顔も良いアクセントと言うか……」


 ……本当にあのクソシスターだけ狙われるようにならねえかな。


 未だ尿意ギリギリのところで踏ん張るイブは一度力を入れてデカ鳥を弾くとすぐさま駆け足で俺の腕へ飛び付いてくる。


「も、もう…無理……なの!」


「とか言われても!……おいハクヤ、それは一体何だ?」


「……コップだがどうかしたのかい?」


「お前は変態だッ!恥を知れ恥をッ!」


「勘違いさ、飲むわけじゃない。いざとなればここにすればいいと言う話で……」


 考えていたことの上をいかないでくれ。


 と、その時だった。先程俺達が転移してきた魔法陣が新たに赤く輝き出した。


「キエェェェッ!!」

 

 デカ鳥もそちらに気を取られたらしく開放された俺はハクヤとイブに引き摺られながらエルスの元へ連れて行かれる。


「あの光ってまさか……」


「……ま、そうだろうな。新たに冒険者が転移してくる光。そしてその冒険者は多分―」


 今このダンジョンにいるパーティーはほぼ間違いなく二つ。一つは俺達、ではもう一つはどうだろうか?

 数秒後、一瞬激しい光が周囲を照らす中、彼らは現れた。


「ここで最後かな。長かったけどボスを倒して帰ろうか」


「そうね!せっかく最後まで来たんだもの!ビシッと決めて気持ちよく帰るわよ!」


「碧ちゃん気を付けてね…お城の図鑑でも見たことないモンスターだよ!」


「正体不明……哀川君も久川さんもまずは情報収集からいきましょう」


「見栄え的に僕が混ざって先頭に立とう」


 混ざんな混ざんな!


 突如出現したハクヤを見た瞬間、ルイ達の顔が当たり前のように引き攣るが遠くでエルスの治療を受ける俺を見るとすぐに駆けてきた。


「ワタル…君達は何故?朝にはギルドから通達でここに近付かないようにと……」


「こ、細いことは後でな。それより来るぞ」


「え?」


 ルイが振り向いた時には既に撃つ姿勢へ入っていたデカ鳥。だが、


「ナイン・ブラスターッ!」


 ルイが反射的に撃った九つのビームが物凄い早さで飛び着弾。姿勢を崩すデカ鳥。


「す、凄えな」


「うん、ありがとう。僕も勇者として鍛えているからね、そう簡単には喰らわないよ」


「今のうちに少ししか持ちませんが光線用の結界貼ります!バーチャルヴェール!」


 ハルカがそう唱えると半透明な壁のようなものが俺達を包み込む。

 この明らかに変わった流れ、そして見えてきた勝機。決めるべきはここだ。


「……どうやらあの三ツ首の鳥は自動で回復ふるようですね。しかもかなり強力な回復量かと思われます」


「あ、すみませんそれ私が今ワタルさんに回復スキル使ってるからかと…」


「???」


 早々にメガネをクイッと上げ、考察していたユウガが困惑しているが説明している暇もない。


「ルイ、考えがあるんだ」



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦



「……そうだね。それならいけそうだよ。でも信じていいのかい?特に――」


「任せてくれよ!こんなんでも火力だけは誰にも負けない二人だからな」


「もう…失敗したら許さないんだからね!」


 ご自慢のツンデレも見たことでいざ決行といこうか。


「ハクヤ、イブ、二人とも分かってるな?最大火力をお見舞いしてやれ、出来るよな?」


 一瞬ぽかんとする二人だったがすぐに顔は自信に満ちた表情へと変わっていく。そして声を揃えて言った。


「一撃で仕留めるよ」「一撃で仕留めるの」


 決意は十分、だが一つだけ不安もある。それは今解消しておくべきだと言える。


「……ワタル?準備は出来たかい?」


「ああ……その前に」


 絶対に負け筋は消しておく。


「簡易トイレを……貸してくださいっ!」

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