第94話 見せ場はやらないぞと
ようやくかかった獲物を見るかのようにその三ツ首のデカ鳥は瞳を開く。
「あわわわわわ目を開けましたよ!」
「落ち着けバカッ!距離はまだある。どうにかして出口を――」
探せ、そう言いかけた時だ。その三ツ首のデカ鳥は大きな翼を広げると何やら腹の辺りが赤く光って…
「ワタルさんッ!私を褒めてください!」
「―ッ!?こ、この中では割と常識人ッ!」
寸前でヘリオルグランテストが発動、デカ鳥の口から発射された赤黒い光線をシャットアウトする。
「ば、バケモンかよ…」
「モンスターなんだからバケモノと遜色ないのでは?」
そうだけどそうじゃない。
目の前には今の光線で抉られた地面。何かの神殿跡地の様なこの場所は円形の造りで俺達を取り囲むのは高い壁。周りを見渡しても柱ぐらいしか見当たらない。
「……ふむ、出口は無いみたいだね」
「倒せば出られるの!」
「そうは簡単に言ったって……」
話し込むうちに二発目を構えるデカ鳥。
「と、取り敢えず動きながら作戦会議ッ!」
光線を避け、逃げ回る俺達は互いに意見を出し合う。
「はいなの!」
「よし、イブ!」
「ハクヤを盾にイブが首を斬るの!」
絶対言うと思った、却下です。
「任せたまえ」
「ハクヤ!」
「焼かれたワタルの無念を力に僕の真の力が覚醒、消し飛ばす」
「よし、イブの作戦でいこう」
「おっと落ち着こうじゃないか、簡単な勇者ジョークさ」
「……次は無いと思え」
「善処するよ」
「では私が!」
「焼かれるのかい?」「焼かれるのか?」
「はい怒りました、今からあのモンスター回復させ続けます」
一向に作戦など出てこない俺達はエルスに謝罪し、逃げ回るだけで体力も減ってきている。一度転ぶだけで消し飛ぶこの状況下ではかなり危険だ。
「う…イブ、ハクヤ、お前ら光線防いだ隙に近付くことって出来るか?」
「僕の経験上、もう二つの首も同じ事出来るはずさ。そう考えると厳しいね」
「いっぱい光線来たら避けられないの…」
「そっか…そうだよな……」
ハクヤとイブが全ての攻撃を抑えたとしても俺とエルスじゃ火力不足。ここに来てに自分の力の無さを痛感する。
「打つ手…無しか」
「一番簡単なのは光線を上回る魔法で遠くから木っ端微塵にすることだね」
「勇者の剣で吹き飛ばせないのか?」
「簡単だが僕の美学が許さないよ」
その美学一生役に立たないから捨てろよ。
「……まあ、それならイブも出来るんじゃないか?」
「出来るけど力の制御は出来ないの」
出ました狂気のセリフ『力の制御』。
せっかくの案が尽く潰れていく中、比例するようにデカ鳥の攻撃は激しさを増す。遂にはもう二つの首が攻撃態勢に入った。
「ワタルさん!流石にあれは!」
「クソッ!食事中の顔が可愛い!」
「……やっぱり急に褒めるのってシュールですよね。恥ずかしくないんですか?」
ちょっと気にしてるからやめろ。
どうにか三ツ首から発射された光線を受け止める俺だがこのままではジリ貧。負けなくても勝てない。
「やっぱりエレメンタルドライブを使うしかないか?」
「なるほど、見せ場はやらないぞと」
お前じゃねえんだからさ。
「まあ、ワタルさんにあの光線を打ち消す事は出来ませんからね。イブちゃんとハクヤさんが光線を消して私が誘導、その隙にワタルさんが近付く……って事でどうでしょう?」
「脇役が輝く回も必要だからね。協力しようじゃないか」
「おにーちゃんが喜ぶならやるの!」
「……ま、それしかないよな。あのデカ鳥が次構えたらやるぞ」
宣言から数秒、光線が止みクールタイム。
その間に全員でバラバラに走り出した俺達を目で追うデカ鳥。そして、
「光りました!イブちゃん!ハクヤさん!」
「ネオフレア・エクスブラストッ!」
「ノヴァ・バスターなのッ!」
イブとハクヤから飛ぶ高火力。これにはデカ鳥も光線で対抗するしかない。そして残った首はあと一本。
「いきます、ジェミニッ!」
エルスから放たれた光の矢はアンデット以外に効果は無いが最後の首の気は引ける。
「ワタルさん!」
「任せとけッ!」
こうなればあとは簡単、近付いて俺の一撃をお見舞いしてやるだけ。
エルス達の横を通り、地面を蹴って前へと進む。残る距離は20メートル程。
「喰らえよ、エレメンタルドライブッ――」
だかこの時の俺達は忘れていた。首は3つだがこのモンスターの身体は鳥。
「って――あ」
スカッた俺の拳は地面を陥没させ大きな衝撃と共に大穴を作る。
そう、鳥は空を飛ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます