第93話 随分良心的

「おいおい!指輪に金貨に宝石!選り取り見取りじゃねえか!」


「ワタルさんの魔法で部屋全体が洗い流され隠れていた物が出てきたんですかね?」


「理由なら今はどうでもいい、とにかく見当たり次第集めろお前らっ!」


 俺は元々ダンジョンから小さな宝石が一つでも見つけることができれば良いと思っていた。そしてその宝石を売った金で小さな店をレンタルし勇者祭で荒稼ぎ―――

 という流れを考えていたわけだ。だがこの量のお宝だ。もしかしたら…


「ひょっとしてこれ全部売れば店も出さずに城の借金全部返して自由なんじゃないか?」


「当たり前じゃないですか!これだけあればお釣りだってたんまり貰えますよ!あ、ワタルさんが今被ってる呪いの王冠と似たような物が…」


「バカ!近付けんなって、…でも確かにそうだな。ドワンウルゴに置いてきた荷物分はどうにか買い替えたいよな」


「ふむ、僕も丁度新居が欲しかったところだからね。城を買収してこの国を頂こうじゃないか」


 国賊さん現実見てくれ。


「イブは美味しいもの食べたいの!」


 各々が欲を垂れ流しているが問題は無事に持ち帰れるかである。力尽きればこの宝の山もゼロ。気を付けなければならない。

 

「持ち帰るのはハクヤのアイテムボックスにぶち込めば良いとして……」

 

「ふっ、アイテムボックスは僕の本体と言っても過言では無いからね。感謝しながら使うといいよ」


「……次からお前のことアイテムボックスって呼ぶけどそれでもいいか?」


「君は僕を傷付けた。決闘を始めよう」


 情緒不安定かよ。


「おにーちゃん、代行なの。決着をつける時が来たの」 


 戦闘民族かよ。


 突如始まる小競り合いを冷えた目で見つつ近くにあった宝を拾い終わった俺とエルスはひと休憩。

 再度立ち上がり二人を引っ剥がすと先程のウォーターショットで濡れた服を乾かす。


「絶対にこっちを向かないで下さいね!」


「う、うるせえ!お前の恵まれた身体見て何になるってんだよ。頼まれない限り向かねえよッ!」


「……ふむ、テンプレ会話がこう簡単に破壊されると少し悲しい気もするね」


 ハクヤが何かこちゃごちゃ言ってるが俺には到底理解出来そうにはない。もしエルスにこっち向いて下さいと頼まれれば痴女の烙印を押してやるまでだ。……多分。



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦



 ハクヤの火属性魔法によって服を乾かした俺達はアイテムボックスに宝を詰め、更に進んでいく。


「……そろそろ最深部ですかね?ルイさん達は大丈夫でしょうか?」


「基本勇者には女神様からの加護があるって言うし大丈夫だろ」


「例外を見るような目を僕に向けるのはやめたまへ。僕にも加護ぐらいはあるさ」


 例外を見るような目ってなんだよ。


 ここまでは順調、宝を手に入れて以降何度かモンスターに接敵はしたがその度にイブがゲノムディストーションで粉砕してきた。

 おかげで道にはモンスターの顔をした植物が通った印のように生えている。

  

「あ、何か見えてきましたよ!」


 最初に気付いたのはエルス。道の先に何か看板のような物が立っている。 


「何か書いてあるの」


「……この先最深部。ボスに挑戦する者は左の魔法陣へ。出口は右の魔法陣へ……か」


「随分良心的ですね!早く右へ進んで脱出しましょうよ!」


「帰れるの?」


「ああ、そうだな。わざわざボスに挑戦する必要もないし――」


「罠だね」


「「「ッ!?」」」


 全員の動きが止まる。


「……一応聞くが何故罠だと?」


「よく考えほしい。普通、こんな看板をダンジョンのラストに置くだろうか?」


「そりゃ普通は置かないけど……でも書いてあるんだぜ?」


「二つ目、たちの悪いモンスター、見覚えのある罠。これらは僕の元いた世界では有名なものでね、きっとこのダンジョンの作者は日本人さ」


「にほんじん……ですか?」


 自信満々に言い切るハクヤに気圧される俺達は更に話を聞く。


「そして最後三つ目、僕もそろそろ学んできたさ。今まで簡単に物事が簡単に成功した試しがあるかい?」


「「「ッ!」」」

 

 ハクヤの急な真面目な考察は俺達にクリーンヒット。怪しむ隙が生まれる。


「た、確かに今まで物事がこんなに簡単に運ぶことなんて無かった!つまり今度は出口の扉へ入ると……」 


「そう…ボスに出くわすという訳さ」


 ハクヤの意見だがこれは納得がいく。服だけを溶かすエロモンスターに性格の悪い罠。

 これらを鑑みれば明らかにこの看板は罠。


「大手柄じゃねえかハクヤ!」


「大活躍ですね!」


「ちょっとだけ凄いの!」


「はははっ!勇者として仲間を守るのは当然の事さ。感謝なら後でたっぷり聞くさ」


 調子に乗ったハクヤを煽てながら俺達は右ではなく左の魔法陣へ移動。すぐに魔法陣は起動する。


「よし、これでダンジョンともおさらばか」


「探検楽しかったの!」


 起動した魔法陣は俺達を転移させ、安全なダンジョンの外ま―――


「……ダンジョンの出口には三ツ首のデカ鳥がいるんだな」


「……きっと挨拶ですよ。ありがとうございました、また来てねーって」


 必死に現実逃避しようとする俺とエルスだが今更になって俺の頭の中にはこれまでの記憶が思い起こされる。

 物事が簡単に運ばない理由。そう、そのきっかけは基本、ハクヤである。

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