第92話 自白同然

 破壊不能オブジェクトを横目にそそくさと前へ進む俺達。するとイブがふと何かに気付いた。


「ん…目がチカチカするの…」


「大丈夫か?もしあれだったら少し目を瞑っていてくれてもいいからな」


 そう言ってイブの手を引く俺だが、問題自体は改善しない。


「そうですね…、確かに先程までと違ってやけに壁が発光している様な――」


「ふふっ…そうか、君達やっと僕のオーラが見える様になったみたいだね」


 自称発光ヒューマンがわけの分からない事を言っているがイブやエルスの話には俺も思い当たる節がある。

 ここ数十分の出来事だろうか?普通の石で出来ていたはずの壁が気付かない間に発光しているのは確かだ。


「最深部が近い……ってことか?」


「そうかもしれませんね!ほらっ!見てください!古びた部屋がいくつかあります!」


 エルスが指差す先には扉の外れた部屋の様な空間がいくつかあった。


「コケが酷いね。ここは僕の出番さ」


 何十年も誰も出入りしてないのかコケとホコリに侵食された部屋を見てハクヤが前に出る。


「お見せしようじゃないか、クリアダスト」


 ハクヤがパチンッと指を鳴らすと足元に魔法陣が広がり次の瞬間にはコケや汚れが綺麗さっぱり消えていた。


「おお!!たまには良いスキル見せるじゃねえか!見直したぞ!」


「好感度がマイナスからちょっとマシなマイナスまで戻りました!」


「嫌いなの!」


「久々に浴びる賞賛の声…、やはり僕にはこれがあっているよ」


 幸せな耳してんのな。


 そんなハクヤの幸せを邪魔せず、俺はさっさと部屋へ入ろうと声をかける。


「さて、部屋も綺麗になったことだしさっそく漁るとしようぜ?」


「イブも手伝うの!」


「ちょっとワタルさん!そんな走っちゃだめですよ!転びますって!」


「ちょっとぐらい平気だろ。それより見てくれよ!見たことないような置物が――」


 ヌチャッ―


「ぬちゃ?」


 俺は忘れていた。ハクヤのスキルがまともに作用するはずがないのだ。

 何かに足を取られた俺は盛大に前へ倒れ込む。


「おわっぷ…ペッ!?お、おい!なんか透明なネチャネチャしてザラザラしたものが!」


「美味しいですか?」


「は?……い、いや味なんて分からないぞ」


 するとエルスは少し首をかしげ何か不穏な気配を醸し出した。俺は一体何があったのかと起き上がろうとするが真剣な顔で動かないで下さいと諭され動きを止める。


「匂いはどうです?」


「え…ちょっと臭いな」


「身体に異変とかって…」


「う、言われてみれば頭が痛いような…」


 そして、それを聞いたエルスは笑顔でこう言うのだった。


「結論から言うと食用じゃないです」


 マジでぶっ飛ばすぞお前。



✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


 

 エルスに聞いてみるとどうやら俺の頭痛はストレスからくるものだと言う。原因はお前かと言ったら逆ギレして頬をつねられたので恐らく間違いないだろう。

 

「それでだ――」


 すっと俺の目はある人物に向けられる。


「ふっ、何か言いたげだね。叱るだけで済むと助かるよ」


 自白同然のセリフが返ってきた。


「で、今のスキルは何だったんだよ?」


「お答えしようじゃないか。今さっき僕が使ったスキルは『クリアダスト』もともとは旅や遠征で邪魔になったゴミを綺麗に消すためのスキルらしい」


「なら効果はゴミや汚れを消すみたいなのであってるよな?」


「ああ、だが僕のは少し解釈が違ってね…」


「……!?」


 既にピンと来た俺は口の中に入ったその透明なものを吐き出すがもう遅い。


「僕のクリアダストはその名の通り消す、つまり見えなくなるだけさ」


「ばああああああっかッ!!!!じゃ、じゃあ今俺の口に入ったのって!!」


「ホコリ、コケの類いだろうね」


「ウォーターショットォォォォォッ!!!」


「待って下さい!こんなところで使用したら杖の効果で――」


 エルスの声も届かず、元多分ギジンカして美少女になる杖である『解放の杖イリステミス』により魔力が底上げされたそのウォーターショットは部屋中に爆散。溢れ出た水が部屋を出てダンジョン内へ流れ出る。


「……だ、誰が悪いか多数決いいか?」


「責任から逃げないでください!」


「ふむ、原因究明といこうか」


 お前だが?


 そんな気不味い空気の中、イブが何かを俺の元まで持ってきた。


「これ落ちてたの」


 イブの手に握られていたのはキラキラ光るネックレス。更には雌豚が宝石の付いた指輪のようなものを俺の手に置く。


「おいッ!?これって!」


「コ、コケやホコリで隠れていたんでしょうか?」


「「……………」」


 そして、何かに気付いた俺達は辺りを見回す。そう、辺りに散らばっているのは、


「「「お宝ッ!」」」「なの!」

  

 遂に見つけた大逆転の奇跡だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る