第91話 黄金の盾
「ヘリオルグランテストッ!」
何も分からず適当に手をハクヤに向けた俺はスキル名を唱える。が、
「ん?ヘリオルグランテストッ!」
……スキルが発動する気配が無い。
「だから書いてあったじゃないですか!そのスキルを使うときは対象を褒めなきゃいけないんですよ!」
「そ、それは知ってるけど妙な抵抗感が…」
「ほほう…、褒めるとこがありすぎて悩んでるとみた」
おう、不正解だ帰ってくれ。
「まあ、ワタルさんは過度なツンデレさんですからね!デレる時はくるくる回りながらデレてくれます」
そんな奇妙なツンデレいてたまるかよ。
ニヤニヤしながら褒められるのを待つエルス達に抵抗感が更に増すがこのままではいつまで経ってもスキルが使えない。
「覚悟を決めるしかねえか…」
俺はハクヤに向かって手をのばす。
「い、意外と人としての器のが大きい…」
「照れないでもっと声を大きくどうぞ!」
「人としての器が大きいッ!!」
そう声を上げた瞬間、周囲に神々しい光を放ちながらハクヤの正面に黄金の盾が出現する。稲妻を纏ったその盾は辺り一帯の空気をヒリつかせ、圧倒的な存在感を示す。
「ぐ…け、結構痺れたんだが……お、お前らは大丈夫か?」
「安心したまえ。僕に向けて使用されたスキルだからね」
「おお…それなら良かった」
「至近距離で電撃を浴びたよ」
「エルスッ!!回復うううううう!!!」
「ひょ、ひょっとまっへくらひゃい……今のでんれきへろれひゅがまわ……」
あろうことか目を回してフラフラしているエルス。と、そんなエルスを見て楽しそうに手を叩くイブ。
「お、おい!イブは平気なのか?」
「ん!ビリビリはばっちりなの!」
イブの肩に乗っていた雌豚も元気そうにしているのを見るにこの二人…一人と一匹は何かしら耐性があるのかもしれない。
と、考察しているのもつかの間、フラフラしながらもエルスが俺の肩を叩く。
「あの〜わひゃるひゃん!」
「ん?どうしたエルス?そんな面白い喋り方しやがって」
エルス渾身の右ストレートを避けた俺はハクヤの後ろに隠れつつエルスの回復を待つ。
「えーごほん、回復も済みましたしいいですか?」
「……どうぞ」
「電撃は聞いてません」
俺もだが?
「てかそうだよな!スキルの説明欄には電撃が出るなんて一言も――」
「初登場演出さ」
割り入って発言したのはハクヤ。何か思い当たる節があるらしい。
「初登場演出?」
「ああそうだね。スキルの初登場時には少し特別感を出す決まりがあるのさ。余計な詮索はしないことだね」
「なんて迷惑な……」
これにて一段落ついた俺達は遂に歩みを進めることとなる。
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ヘリオルグランテスト初使用場所から100メートルは歩いただろうか?ルイ達も追い付いてくる気配はなく順調に足を進めている。
「さて、次モンスターがでてきてくれれば俺のヘリオルグランテストを実戦で使うことが出来るんだが……」
「あ!出ましたモンスターです!」
望んでからは早かった。エルスが指差す方向には背中に岩を乗せたモグラ型の大型モンスター。
「……あいつは?」
「すみません…見たことないです。というか先程ルイさん達が相手にしていたモンスターといい見たことないようなモンスターがかなり多いです……!」
流石は未発見ダンジョンとでも言うところだろうな。
向こうも俺達を見つけたのか雄叫びを上げて威嚇してきている。
「所詮モグラ、僕の敵ではないさ」
「じゃあイブの敵なの」
そう言うことじゃないのよ。
上手く会話が噛み合わない中、先制攻撃を仕掛けたのはモグラだった。
両手にある大きな爪を振り上げ、俺達を目指し一直線に向かってくる。
「ワタルさん!今なら!」
「おう!任せとけ!『仕草が可愛いッ!』」
先程とは違い、瞬間的に現れた黄金の盾はイブを護るようにその真価を発揮する。
「ブガアァァァァァァァァッ!!!?」
モグラの爪が盾に触れたと思えば次の瞬間にはその反動でモグラが後方へ吹き飛ぶ。
「今だ!イブッ!」
「ゲノムディストーション……なの」
「お見事!」
消滅の剣によって声も上げることなく消えたモグラは魂を花に埋め込まれる。
「……相変わらずキモいな」
開花し、破壊不能オブジェクトと化した人面草……モンスター面草を見て呟く俺。これからもこれが生産されていくと思うと若干この星に申し訳なく思う。
ただ問題のヘリオルグランテストの性能面については文句はない。モグラの一撃を食らっても傷一つ付かずに跳ね返す防御性能はかなり信用出来る。魔法に対してもそのうち使ってみたいところだ。ただ、
「ぷっ!仕草が可愛いッ!……ですって!」
「ははっ!器の大きい僕でもあのキメ顔であのセリフは言えないね!」
「イブは可愛いの?」
俺は二度とこのスキルを使わないかもしれない。
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