第90話 感謝と賞賛
すっ…と何か流れ込んでくるものを感じるが動揺はしない。
その違和感も数秒で終わり、青白い光のようなものが空気中に溶けていく。
「……使いにくそうなスキルですね」
予知やめろ。
「お前が言うとその通りになりそうで怖いんだよ。口に出さないでくれ……」
「言霊ってやつだね」
後ろで余裕を持ち余した笑みを浮かべたハクヤが俺の前へ歩いてくる。
「ことだま?」
「ああ、簡単に言えば言葉には霊力が宿っていて口に出すとそれが本当になる……という伝承の様なものさ」
「そんな都合の良い伝承があるのかよ……」
ハクヤの元いた世界の伝承なのだろうが知識として覚えておく価値ぐらいはあるかもしれない。
「手本を見せるよ」
ん?おい待て、手本ってなんだ。
にやりと笑ったハクヤはダンジョン内の柱に向かってデュソルエレイザーを向け、
「ははっ!急に柱が弾け飛んだりすることがありそう……だねッ!ストーンバレット!」
「違うッ!絶対にお前のは違うッ!」
「イブもやるの!ハクヤを10メートルふっ飛ばすの!」
「ぐわああああああああッ!!!!」
それはただの有言実行なのでは?
イブの突進で10メートルきっちり吹き飛んだハクヤはのっそりと起き上がり腕を組み直し後ろに立つ。
エルスがまるで何の関係も無いかのように微笑ましそうに見守っているのがムカつくが我慢出来る範囲だ。
「ったく…落ち着けって。取り敢えずまずはギルドカードでスキル詳細の確認をだな…」
俺は未だ好戦的な目をしているイブの手を引き横へ持っていき固定。それから懐からギルドカードを取り出すと前回と同じくスキル欄に目を移す。
希望としては前回と同じく広範囲爆撃スキルなのだが……、
「今回はっと――ヘリオルグランテスト?」
「あの…意味は分かりませんがヘリオルってヘリオル神の事でしょうか?」
「ヘリオル神?聞いたことないな」
俺も神様に詳しいわけではないがメジャーどこぐらいは知識として脳にある。
例えば大昔、枯れ果てた大地に緑を生み出したとされるエヴァリアル。更にその前、大地を生み出したとされるボルガイス。
そして現在、この世界を一人で治めているとされる――
「ワタルさん!聞いてます?」
「って、あ、ああ…すまん!もう一度頼んでいいか?」
「もう…人の話はちゃんと聞きましょうね」
こいつにこんなこと言われるの屈辱だろ。
「では最初から……ええと、ヘリオル神と言うのは感謝と賞賛の神様です。とても清らかな心を持った神様だったようで度々この世界へ降り立っては人々に感謝と賞賛の素晴らしさを説いていたとか…」
なるほど。少し構えたが感謝と賞賛の神様ならおかしなスキルにはならなそうだ。
俺は安堵し息を吐くとスキル説明を見る。
スキル2
・ヘリオルグランテスト
→ヘリオル神の加護が付与された完全防御スキル。障壁を貼り、全ての攻撃を防ぐ。
「……何か凄いこと書いてないか?」
「全ての攻撃を防ぐですか……。今までの私達に無い防御スキルですし良いのでは?」
「だよな!そうだよな!」
本来広範囲攻撃スキルが欲しかったところだが説明を見る限りこの防御スキルはかなり強そうだ。大当たりと言っても過言ではないのではないか?
「あ、続きにも何か書いてありますよ!」
「お、どれどれ……なお、ヘリオル神の加護により仲間へ賞賛の意を伝えることでこのスキルは発揮される」
地雷感が増した。てかデメリットだろ。
「……お前ら、これをどう見る?」
「どうって、つまりこのスキルを使うときは対象を褒める…?というよりは良い所を言うみたいな事なのでは?」
「おにーちゃんが褒めてくれるの!」
「さあ、僕の良い所を存分に言いたまえ」
既に乗り気なイブとハクヤだがこちらとしては気になることが山程ある。まずは練習、もとい使用してみることが優先か。
「……よし、ヘリオルグランテストッ!」
人生2度目のスキル初使用の時間である。
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