第83話 一度やりたかった
「やっと帰って来たああああああっ!!」
「どうしたんですかワタルさん?そんな死線を繰り広げて来たみたいな反応して」
ここは俺達が泊まっている宿の前。そんな中、空気の読めない異常性癖シスターが不思議そうに聞いてきた。
「あのな……一歩間違えていれば危なかったんだからな?今を生きている事に感謝……」
「臆病ですね〜!そんな事じゃ将来お嫁さんなんて出来ませんよ!」
「ふっ、僕は年上の美しい女性を妻に貰うと決めているんだが……どうだい?」
「え、無理ですけど…」
「夢見んなアホ」
「もしかして勇者には感情が無いとでも思っているのかい?」
仲間による辛辣な意見に打ちのめされたハクヤはトボトボと階段を上がって自室へと戻っていく。
後ろから夕飯の頃には下へ降りて来いよと伝えると、手を高く挙げ振って反応を示していたので追いかける必要は無い。
「さて、取り敢えずイブを起こさなきゃだよな……」
夕方寝てしまうと夜寝れなくなってしまうからな。今は無理にでも起こしておいたほうが良いはずだ。
「おーいイブ、起きてくれ……」
反応は薄い。
「イブ、お腹空いてないか?」
今度はぷにぷにと頬を触ってみるがまだまだ反応は薄い。
「イブちゃん、大変です!ワタルさんが派手な格好したエロい女に捕まりました!」
「始末しに行くの!」
そんな事で起きる事実に震えて俺は今日の夜眠れねえよ。
そんな俺を、この状況を把握できずにいたイブは首を傾げ俺を見つめるのだった。
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夕食時、集まった俺達は今日の反省会をしていた。
「取り敢えず俺は明日この杖持って行くとするかな……。あと、雌豚も」
(ママと…パパ…の為に……頑張る……よ)
雌豚は昼間大人しくしていたようで、俺達が帰って来てからはずっと俺、もしくはイブの頭の上を陣取っている。
卵の案件も解決したからかイブに甘えている様だ。
「あの、ワタルさん」
「ん?何か問題か?」
「あ、いえ…そろそろその杖の呼び方決めておいた方が良いのでは?」
「あ〜確かに長いよな……。多分ギジンカして美少女になる杖…」
「美少女で良いんじゃないのかい?」
抵抗感が凄い。
「無難にキューティクルブロッサムとか…」
その単語はどっから出て来たんだよ。
こいつらに考えさせても埒が明かない。ここは一つ、俺が……
「ワタルさんが思い付く美少女の名前とかにしてみるのはどうでしょうか?」
「俺が?何かそれ気持ち悪くないか?」
「まあまあ…簡単な呼び方の方が良いじゃないですか?」
そう言ってエルスはにこにこと俺を見つめる。その顔はまるで私ですよね?と聞いているようで――
「あ、私…ですか?」
声に出しちゃ駄目だろおい。
エルスに構ってやるのも疲れるので一旦ここはスルーして自分だけの空間を創る。
俺が思い付く美少女か……。
「……ミツキ…とか」
「誰よその女ッ!!!」「なの!」
情緒不安定かよ。
「すみません…一度やりたかっただけです」
恥ずかしそうに身を縮めるとエルスはイブを優しく撫でる。だがその間にも考えていたのかハクヤが興味ありげに聞いてくる。
「それで、ミツキとは一体誰なんだい?」
「ああ、ミツキは俺の幼馴染みだよ」
「デッドチャンスッ――ぐほぁ!?」
スキルを行使しようとしたハクヤが寸前でイブの一突きで吹き飛ばされる。
「……あのな?お前が考えているもんじゃ全然ないからな?」
「ワタルさん、釈明をどうぞ」
俺の味方はイブだけだよ。
「はあ…、ミツキの親とは俺の親が仲良くてな。朝起こしに行ったり、親が税を納める為に王都へ行く時とかは飯を作ってやったりしてたもんだよ」
「普通逆じゃ……ないのかい?」
逆さになったハクヤが疑問を持つ。
「逆って何だよ……。片親になってからは夕飯を共にする事も増えたぐらいだからな。俺も料理にはそこそこ自信あるぞ」
「ま、まあ…それならギリギリ許されなくも無いような……」
俺は何を審査されてんだよ。
「それで、そのミツキさんとは?」
「いや…別に特別な関係があるわけじゃないからな?そう……妹みたいな」
「はあ、それで美少女として名前が出て来たと……」
「まあ…そうだけど」
顔自体は誰がどう見ても美少女と言えるはずだ。若干クールな変わり者なだけで……。
「なら良いんじゃないですか?命名、ミツキって事で。開放の杖、ミツキ!かっこいいじゃないですか!」
「……いや、ややこしいから辞めとくよ」
本人に聞かれては恥ずかしいじゃ済まない話だからな。
「そうですか?それなら――」
「……イリステミスなの」
エルスの言葉を遮って案を出したのはイブだった。
「イリステミス?」
「の!バパによく会いに来てたお姉さんのお名前なの!綺麗だったの!」
会いに来てた…ねえ…。よく分からないが決まる気配も無いしこれで良い気がして来たな。
「よし、ならそれで決まりにしよう。今日からこの杖は開放の杖、イリステミスだ」
「そんな簡単に決めて良いんですか?」
「別に良いだろ。俺が知ってる人の名前付けても恥ずかしいだけだしな」
「なの!」
なんとまあ、あっさり決まってしまったことだろうか。俺はイリステミスを手に取ると少し眺めて微笑む。
そして次の瞬間だった。イブが口を開く。
「ちなみにイリステミスってお姉さんがいるお店の名前は『女体の夢』なの」
イブ以外全員の動きが止まったのだった。
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