第82話 待ち遠しい

「――と、僕の話はこれまでだよ。流れは理解してくれたかい?」


「……それなりにな」


 これ以上聞いたところで頭が痛くなる様な話ばかりだろうし切り上げ時だ。

 そんな俺の様子を見て満足したのかハクヤは首を縦に振る。


「ふっ、それなら良かったよ。これでこの国の国王がいかに愚かなのか分かってくれたようだね」

 

 これ聞かれたら極刑だろ。


「元はあんたが迷惑かけたのが原因でしょ!そもそも追放されたのに何でこの街にいるのよ!」


 自分が悪いとは考えないハクヤに対してミドリがキレるが効いている様子はない。

 俺達と同じようにこんな喧嘩が毎日繰り広げられていたのなら流石に同情するな。

 

「ワタルさんワタルさん!私この状況知ってます!『嫌よ嫌よも嫌のうち』ってやつですよね?」


 めちゃくちゃ嫌ってんじゃん。


「はぁ…すまん、今回は特別な事情があって転移しちまったんだ。城に迷惑かけた分の金払い終わったらまた違う街行くからさ…」


「そ、それなら…うん、しょうがないわね」


 焦ったのかミドリは手をバタバタさせると首をそっぽに向けて言った。


 俺達が城に穴開けたことを知らないって事は恐らく意図的に知らされてないか隠されてるな。それだけハクヤを警戒しているのが分かる。


「あ〜もう、瑠偉なんとか言ってよ〜!!」


「あははは…、とにかくこれで僕達と士道君の関係は知って貰えたからひとまずは良いんじゃないかな?それに……あ、」  


 分かれ道を見つけ止まったルイ。


「ここでお別れかな」


「お、そうか、今日は危ないところ助けてくれてありがとな!また会う機会があったらその時はよろしくな?」


「うん、僕も楽しみにしてるよ」


「僕の力を借りたくなったらいつでもお願いしに来たまえ」


 何かの間違いでこいつ引き取ってくれねえかな。

 

「あ、そうだ。ダンジョンのことなんだが隠し部屋が見つかったって事は報告しないでおいてくれるか?」


「いいけど…どうしてかな?」


「金策するなら他の冒険者に見つかって欲しくないだろ?」


 せっかく見つけた隠し部屋だ。他の冒険者に漁られてはたまったもんじゃない。


「そっか、うん…分かったよ。でも今日みたいな事にならない様に気を付けてね」


 ハクヤがいる限りそれは無理……と言いたいがここは困らせないように肯定して――


「それは士道君がいる限り無理なんじゃ…」


 バレてんじゃん。


「あ、あの…バカにしたわけじゃなくて!」


 失言だと思ったのか顔を赤くして手を振るのはヒーラーであるハルカ。


「いや、実際そうだから別に気にしなくていいぞ。それでも今までなんとかやっていけてるからな。今回も何かしら策を考えて何とかするさ」


「私もトラップ地帯が待ち遠しいです!」


 エルスとハクヤを宿に縛り付けておけばいける説ないか?これ。

 肝心の本人は今俺の背中でぐっすり眠っているがイブと二人、そこに雌豚でも連れていけば余計な事起こさず踏破出来るのでは無いだろうか?


「ふふ、なら頑張りなさいよね!私達もきっと魔王を倒して世界に平和をもたらすわ!」


 すると、何かを思い出したのかユウガが懐から紙を取り出した。


「あ、久川さん、それなんですけど最近幹部が一人消滅したみたいですよ」


「え、消滅…?」


 あ、これって。


「はい、一週間ほど前に怪人の森と呼ばれる場所で大きい爆発があったみたいです。そしてそれと同時期に城にある魔王軍幹部のオーラを計測する玉の光が一つ消えたとか……」


「へえ〜何か失敗したのかしら?」


「ワタルさん、これって……」


 エルスも気付いたらしくヒソヒソと俺の耳元へ口を近付ける。


「ま、そうだろうな。幹部だったのは予想外だが側近だとは言ってたからな。これ話したら討伐金とか出ねえかな?」


「言ってみます?」


「いや……それは待とう。そんなのが広がったら魔王軍から狙われるかもしれねえだろ?少なくとも本当にお金に困るまでは辞めとこうぜ?」


 目先の金より身の安全だな。


「倒したのは僕達だよ」


 言ったあああああああああああッ!!?


「おい!ハクヤ!今日は疲れたし帰るぞ!」


 直ちにハクヤの襟を掴んだ俺は早歩きでその場を離れようとする。


「そうだね、そろそろ解散にしようか」


 ルイ達も本気に捉えてないのか疑ってはいないようだ。これだけで普段からハクヤが相当信用されていない事も伝わって来るのが辛いな。


「ああ、じゃあな!」


「ありがとうございました!」


 その後、ルイ達がぺこっとお辞儀したのをみて無事俺達は解散した。

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