第81話 テンプレ
ハクヤは何故ルイ達と同じ様にこの世界に飛ばされたのにも関わらずルイ達と共に勇者として行動していないのか?
エルスから出た疑問は当たり前のものだ。
「ふむ…。それについて話しても良いが少し長くなりそうだ。街へ帰りながらにでも語るとするよ」
「それなら僕からも説明していいかな?話が偏ったりすると困るし…」
「ああ、よろしくな」
俺は返事をするとイブを膝から降ろし、ゆっくりと立ち上がる。そうしてタオルでぐるぐる巻きになっているイブをおんぶすると街の方向へと歩き出した。
聞けばどうやらルイ達は王城へ帰らなければならないため、途中で別れることになるらしい。ハクヤと一緒にいるのを見られても面倒だしそれが一番なのかもな。
「それでは聞きたまえ、第一章『追放』」
はい、不穏。
「僕達が飛ばされたのは王城の地下でね。大勢の魔法使いの力を使い一ヶ月かけて召喚したらしい。美しい女神様にチートを授けられるタイプじゃなかったのは残念だけどね」
「……女神云々は分からんが勇者の召喚って大変なんだな」
「恐らく時間がかかったのは複数人召喚だったからじゃないですかね?私も子供の頃、この国では無いですが勇者召喚に立ち会った事がありますが、かかっても数時間――あ」
と、俺が苦笑いする中、エルスが急に聴き逃がせないことを――
「ん?ちょっと待て、お前は何でそんな場所に立ち合ってるんだ?」
「あ、いや…その……家庭の事情と言うか…家の事情と言うか……」
それ同じだが。
「そういやお前だけは素性を一切話したことないよな。何か不都合でもあるのか?」
「べ、別にそんなおかしなことはありませんよ!ただ……それは時が来たら話します」
エルスの表情が変わった。普段は見せることの無い若干困った様な表情。これは踏み入ってはいけない話だ。
「……そっか。それなら今度教えてくれ」
「はい!ついでに好きな表情についても今度詳しく伝えておきますね!」
とてもいらない。
「ふふっ、仲良いのね!」
その様子を見ていたミドリがからかうように笑う。仲が良い……とは違う気もするが言われて悪い気はしない。
「ってかすまん。話聞くのが先だったな」
「構わないさ。召喚されてからは簡単な事だったからね。国王に魔王を倒して欲しいとお願いされると言うテンプレをなぞり、城で適性検査を行ったってだけだよ」
「案外感想があっさりしてるな。それで?」
「皆ステータスや適性が良かった事から異世界転移の恩恵だとはすぐに気付いたさ。お陰で初めの頃は無双状態だったね」
楽しかった頃を思い出す様にハクヤは腕を組む。後ろでは苦い顔をした勇者パーティーの面々頭を抱えている。
もはやこの先を聞くのが怖い。
「そしてある時事件は起こったのさ」
「お、おう」
ゴクリっ…と両隣から唾を飲み込む音が聞こえる。
「王城内の低難易度ダンジョンから帰って来たら国王に呼ばれたんだ。もちろん拒否出来ずに顔を出したよ。すると険しい顔をした国王が皆の前でこう言ったのさ。『追放だ』とね」
「……何かやらかした記憶は?」
「無いね。あらかた勇者を邪魔だと考えた存在がいるんじゃないかな?」
あくまでも本人には何の認識もない模様。
ただ、これまでの冒険で俺はハクヤについてはそこそこ理解しているつもりだ。まず間違いなく問題を起こさないはずがない。
そこでだ、
「って言ってるけどルイ、結局どうだったんだ?」
「あはは…ダンジョン内は地獄みたいだったよ。士道君がぐんぐん進んで行って罠を踏み、その度に僕達が巻き込まれて……」
「しかも罠って何故か士道君には当たらないのよね……。矢が直前まで近付いたと思ったら突然ひん曲がって私の方向へ飛んできた時は死ぬかと思ったわよ!」
「お、おまけにモンスターと出会った時も単独で行っちゃうので困ってました……」
「ボス戦でスキルを使ったと思えば急にボスが超強化された事もありましたね」
愚痴が止まらない彼らだが、聞いた事のある内容や更に酷いものまでもがありもはや聞いているだけで腹が痛くなる。
「そして最後のひと押しになったのが……」
彼らの思い浮かべるものは同じな様子。
「「「「花火事件」」」」
ここで聞き慣れない言葉が飛び出した。
「花火?」
「うん、僕達の世界では夏の名物なんだ。簡単に説明すると空で爆発が起こるのを楽しむ行事だよ」
とんでもねえ民族だな。ハクヤみたいなのが生まれるのも納得の世界だぞ。
「それを士道君は再現しようとしたらしくて真夜中に空へ火属性と水属性の上級魔法を混ぜ合わせて撃ち込んだみたいでね……」
「…結果は?」
「城のてっぺんが消し飛んだよ」
紛れもない国家転覆罪です。いままで本当にありがとうございました。
「はあ…何となく分かったよ。通りで王城の人にもあんなに睨まれてたんだな」
「なるほど、勇者である僕への暑い羨望の眼差しかと思っていたよ」
「お前本当に人生楽しそうだな」
これから先、何があってもこいつは躓かないだろうと確信した瞬間だった。
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