第80話 分からない

「まずは…この世界へ来た時の話から君達に教えて上げよう。あれは寒い冬の朝――」


「夏…じゃないかな?」


「あれは暑い夏の朝のことだね」

 

 脳みそ溶けてんじゃん。


「僕は夏休みのバイトでプールの監視員をやっていたのさ」


「バイト?プール?」


 未だハクヤが他の世界から来たと言う話は半信半疑だがここまで知らない言葉を出されると少し考えてしまう。


「助っ人……みたいなものかな。プールは娯楽施設だよ」


 ルイからの説明でようやく理解する。


「暑い日の監視員はなかなか厳しいものさ。精々水着の美女を眺める事ぐらいしかやる事が無かったね」


「へえ〜、そこは役得なんだな。それで?」


「その帰り道にアイスを買おうとコンビニへ寄った時の事さ」


「おい待て、それなら一体プールの話は何だったんだッ!?」


「すみませんッ!プールの監視員とは別に尋問又は拷問監視員はありませんかッ!?」


 あってたまるかよ。


 そんな俺達の声はハクヤのムカつく澄まし顔でいなされる。その様子をミドリ達が見てドン引きしている気もするがもはやそこは諦めていい。

 

「……もういいや。で、そのこんびに?って店でアイスを買おうとしてどうしたんだよ」


「そこで彼らに話し掛けられたのさ」


 ハクヤは顔だけルイ達へ向けると更に話を続ける。ミドリも何か言い出そうとしていたが言葉に詰まったのか身を引く。


「彼らとはクラスが同じでね。直接話した事は無いが僕の顔は知っていたらしい」


「そ、そう…だね。士道君の事は知っていたよ。学校でも度々噂を聞くから…」


「と、この様に僕は随分モテていたらしい。鈍感系主人公みたいで素晴らしいね」


「あ、ごめん…奇行の噂なんだ」


 知ってた。


「それで?ルイ達はどうしてハクヤなんかに話し掛けたんだ?」


 聞かれたルイ達は互いに顔を見合わせると困った様な顔をして言った。


「それなんだけど……分からないんだ」


「分からない?」


「ああ、僕達は遊びの帰りにふらっとコンビニへ入ったんだけどそれすらも理由が分からないんだ。まるで…何かに惹き寄せられたみたいに」


 ルイに嘘を付いているような素振りは見られない。また、ルイと同様にミドリ達も理由は分からないらしい。


「しかも問題はそこからで、何気なく士道君を呼んだつもりなんだけどその瞬間、足元が光ったんだ」


「光った?」


「うん、魔法陣のようなものだったかな?それが僕達5人の足元に出現したんだ。それで次の瞬間には既にもう――」


 ルイが言葉に詰まるがここまでくれば俺でも分かる。おそらくその魔法陣だか何かの転移魔法が起動してハクヤ達はこの世界に来てしまったのだろう。

 そして、『他の世界から来た。』これが意味する事も俺は気付いていた。


「……で、こっちでは勇者扱いと」


「そっか…もう分かっちゃうよね。うん、そうだよ。僕達がアルマリーゼ王国に召喚された勇者で間違いないよ」


 あっさりと認めたルイは少し気恥ずかしそうに頭を掻く。対してミドリもあちゃ〜とポーズは取っているが否定はしない。


「なるほどな、ようやく理解が出来た。ハクヤ、お前本当に勇者だったんだな」


「やっと僕の偉大さに気が付いたようだね。崇め奉り信仰するといいよ」


 宗教やめろ。


「てかホントよくこんなやつを勇者として召喚したよな。国の恥だろ」


「言い換えれば国の誇りだね」


 言い換えがプラスに作用しすぎだろ。


「まあ、僕としては異世界に行くならば社畜として働いて過労死やトラックに轢かれるのがセオリーだと思っていたから驚きではあったね」


 と、ここまでがこの世界へ来るまでの話らしい。いくつか不可解な事もあるが大体は俺でも理解が出来た。

 だが、エルスがふと何かが気になったのか口を開いた。それはもちろん本題であり―


「あの…経緯は理解できたんですけどそれなら何故ルイさん達とハクヤさんは別々にいたんですか?」


 5人の勇者の心臓を貫くような一言、いや当然の質問だった。 

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