第79話 命ある生物として大敗北

「……誰か何か言えよ」


 ――――――。

 

 長い沈黙が続く。


 まずは自己紹介をと発言した俺だがそんな簡単に上手くいくはずも無かった。意識を取り戻したミドリを加え、渋々と向かい合って座る俺達とルイ率いるパーティーだが気不味くて仕方がない。

 いや、実際はルイ達とハクヤの間に何があったかは知らないが様子を見る限り明らかにハクヤが何かしらやらかしているので聞くに聞けない状況でもある。

 

 ……でもこれじゃあ進まないよな。まずは深く踏み入った話じゃなく自己紹介から――


「ん……ハクヤが悪いと思うの」


 判決でちゃった。


 もどかしくなったのか俺の膝でゴロゴロしていたはずのイブがすっと言い放つ。


「そうですね。取り敢えずハクヤさんは土下座して謝っておきませんか?」


「ちょっと待ちたまえ。既に僕が劣勢なのは何故だい?」


 エルスまでもが続きいつもの光景が繰り広げられる。やれやれとは思うが少し場が和んだのは確かだ。俺はこの流れに乗って話を切り出す。

 

「よし!まだ名前も曖昧なんだ、軽く自己紹介といこうぜ。俺はワタル、16歳だ。呼ぶ時はワタルでいいぞ」


「では私も…、エルスと申します。ワタルさんと同じく歳は16で抜群のプロポーションと美貌で引く手数多です」


 自覚あるのウザすぎだろ。


「イブも16歳なの!あと…ばつぐんのぷろぽーしょん?なの!」


 名前以外全部嘘じゃねえか。


「そして僕が士道白夜だ。持ち前の抜群のスタイルと顔で引く手数多だと聞くね」


 デマだぞ。……と言うかお前は自己紹介する必要無いだろうが。


 といった調子だがこちらの自己紹介は終わり、ようやく気まずい雰囲気が和らいできたところでルイ達のターンだ。


「じゃあ僕からでいいかな?僕は哀川瑠偉あいかわるい。高校2年生で今は――」


 チラっと何かを確認するように仲間の方を見るルイ。やがて首を振られたルイは再度話し始める。


「今は…冒険者をやってるよ」


「へえ〜どうりで強いわけだな。ランクはどんなもんなんだ?」


「あ、それは…」


「まあまあ、今はそんな事いいでしょ!それより次は私の番よ!」


 割り込んで来たのはミドリだ。間髪入れず自己紹介を始める。


「私は久川碧ひさかわみどり!瑠偉と同じ高校2年で同じく冒険者!よろしくね!」


「ああ、よろしく」


 先程からこうこう?などと言う知らない言葉が出て来るが〜年と付け足していることから小学校などと同じ教育機関だと予想する。

 初代勇者が創った義務教育と言う制度には当てはまらなそうだがどうなのだろうか?


「つ、次は私……かな?えっと、はい。私は空島遥そらじまはるかって言います。私も碧ちゃん達と同じ高校2年生で保健委員会に所属してました!あ、すみません…これじゃあ分からないですよね……」


「あ、いや…名前を教えてもらっただけでかなりありがたいです!」


「あの、私も…タメ口でいいです…」


「そっか、ありがとう。ハルカは見た目シスターっぽいような感じするけどヒーラーであってるよな?」


「あ…私シスターとかじゃないんです。でも運動神経とか無くて……少しでも役に立てることを探してたらヒーラーに…」


「へえ……」


 同い年の女の子にこう言うのも変な気もするが凄い良い子そうだ。


「取り敢えず日々皆の安全を願ってます!」


 女神かよ。


「おいエルス、お前もパーティーに対して何かそう言うのあったりするか?」


「常に罠に引っ掛かったり攻撃食らったりして苦しんでる顔を晒さないかなとは考えてます!」


 誰かこいつ引き取ってくれ。


 もはや命ある生物として大敗北したエルスを横目に苦笑いしつつ最後の一人が立ち上がる。


「最後は僕ですね。波輝優雅なみきゆうがと言います。これまでの哀川君達と同じく高校2年生で、主に支援に徹しています。気軽に接してくれて構いません」


「ってことは皆、冒険者始める前からの知り合いなんだな」


「そうだよ。いろいろあったけど今はこうして4人でゆ―冒険者をしてるんだ」


 いろいろ……か。何があったのかは知らないが彼らはかなりバランス取れたパーティーみたいだ。


「で、本題なんだが――」


 その時だ。


「それについては僕から話そう」


 先程まで何も発言しなかったハクヤからストップが入る。


「……どうしたんだよ急に」


「そろそろ話す頃合いだと思っただけさ」


 そして、覚悟を決めたのかゆっくりと語り始めた。


「これはまだ僕が彼らのパーティーに所属していた頃……いや、もっと前。この世界へ来る前の話からするとしよう」

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