第78話 気持ちの切り替え
「……バレてしまっては仕方ないね。僕も大人しく連れて行って貰うとするよ」
観念したハクヤがやれやれと姿を見せたその時だった。フライで上昇していたルイの顔がみるみる青ざめ、そのまま……
「え、ちょ、お、お、落ちるんですか!?ワタルさん何言ったんですかッ!」
「うるせえッ!俺は何も言ってねえよ!何かハクヤが現れた瞬間に!えっと、ミドリ!お前の男何とかしてく―――」
ルイが駄目そうならばとミドリを頼ろうとするがミドリの方を向いた俺はすぐに後悔することとなった。
「……泡吹いてやがる」
「――ッ!?」
慌ててエルスがミドリの手を握ったままルイを掴む。続く様に俺はルイの頭をガクンガクン揺らし意識を保とうとする。
「おい!お前が落ちたらどうすんだ!何があったかは知らねえがまずはダンジョン抜けるのが先じゃないのか!」
「ご、ごめん…そうだよね……!」
ぐっと気持ちを抑え込み、近付いてくるハクヤを目で追いながらもルイは再度フライを唱える。気持ちの切り替えが出来る分ハクヤ達よりは何倍も素直で助かるな。
気持ちを切り替え上昇していくルイはまるで鳥の様だった。普通のフライでは出来ないような動作を駆使して中層から地上までをあっという間に上がっていく。
「はあ〜みんな無事で良かったよ」
お前んとこの彼女、泡吹いて倒れたけど。
地上へ戻り、その場に座り込んだルイが穏やかな表情をしている。
「そうだな…改めてだが助かった。ありがとうな。……ほら、お前らも」
「あ、ありがとうございました!」
「ありがとう…なの。クシュン!」
「いやぁ…はは…」
少し照れたように笑うルイ。
流石にタオル1枚では寒いようでクシャミをしていたイブを抱き抱えると俺は少し心を落ち着かせる。
今回、結果的には誰一人怪我することは無かったのは良かったな。こうしてルイ達に出会えた事も運が良かったと言えるだろう。
が、一つ気になる事も出来た。
「……一つ聞いてもいいか?」
その瞬間、ルイとハクヤがビクッとさせ互いに距離を取る。
雰囲気を見れば明らかだが取り敢えず簡単な事は知っておきたい。
「知り合い……なんだよな?」
「それは――」
「瑠偉君!碧ちゃん!」
ルイが困った様な顔を見せる中、助け舟かのように聞こえてくる声。意識を取られ声の方を振り向くと草を切り分け、いちごの髪留めをした女の子が顔を出して来た。
「「ッ!?」」
向こうも俺が草を抜けた先にいるとは考えていなかったのか、俺と至近距離で見つめ合うと顔を赤くして飛び出して来る。
「きゃあああああああああ!!!」
「ワタルさん!見知らぬ人にセクハラでもしたんですか?観念して下さい!」
俺はエルスに全力のチョップを食らわせると少し下がって状況の確認。
今、飛び出して来た女の子は真っ先に倒れてるミドリの方へ向うとヒールの準備をするがエルスが先に回復させた事を伝えるとすぐに大人しくなったようだ。
そして流れるようにもう一人――
「ああ…良かった、皆さん無事だったんですね!哀川君が走り出したときはどうなるかと思いましたよ……」
先程の草むらから駆け足で出て来るメガネの青年。
「空島さん、それに波輝君も!さっきはごめん!凄い光を見てつい……」
「ふふ、哀川君らしい答えですね」
何とも仲の良さそうな雰囲気漂うこの場だが大事な事を忘れている。ルイがハクヤに反応したって事は―――
「ああ、それより」
ルイがビクビクと目を向ける。もちろんその先は、
「……久し振りとでも言えばいいのかい?」
やけに落ち着いているハクヤだ。
だが、向こうは落ち着いてなどいられないらしく、メガネ君は三度見、いちご髪留めの子は未だ気絶中のミドリへダイブなどまるで悪魔にでも出会ったような対応だ。
本音を言えば俺だけこの場から全力で逃げたい。……ここまで来たら聞かずに別れるわけにはいかねえよな。
「……自己紹介とか、どうだ?」
俺は状況を打破するため意見を出すのだった。
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