第74話 少しミスったとしても
「アクアランスッ!」
「ぷよっ!」
岩の影で見守る俺達。先程からハクヤの魔法をメルトスライムは吸収し、それをエネルギーとして粘液を出している。
現在、ハクヤはその事に気付いていない様子だが苦戦している所を見ると何故だが気分が良いので性格の悪い俺達は黙っている。
「ハクヤー頑張れよー」
「溶かされれば良いと思うの!」
「骨は拾います!」
3分の2が応援では無いがこれは日頃の行いと言う事にしておく。
「ストーンバレット……ふむ。ワタル、恐らくこのスライムは魔法が効かないね」
ストーンバレットが飲み込まれやっと気付いたらしい。そして、スライムの粘液を避けつつ何かを考えていたハクヤはふと言った。
「……ワタル、詰んでないかい?」
はい、全員が思っていた事言いました。
実は俺達のパーティー、物理で殴れるのがイブだけである。俺も一応ナイフぐらいは使えるがあのスライムに通じるかと言えば答えはNOだ。
その唯一のイブが現在服を溶かされ動く事が不可能……。つまりは詰みだ。
「……あれ?でもそういやハクヤ、お前フェレビア倒すとき何か……」
「勇者の剣かい?」
「そうそうそれそれ、あれなら核ごと弾け飛ばれるんじゃないのか?」
「それは確かだね。だが勇者の剣には一つだけ欠点がある」
「欠点?」
「ああ…勇者の剣は勇者の固有スキル。だからこそ簡単に発動する事は出来ない」
やけに真剣な顔で話すハクヤ。普段はふざけているハクヤだがこんな時は心の中でいろいろ考えてくれているのかもな。
「へえ…その発動条件ってのは?」
「僕の気分がノッた時だね」
その辺で朽ち果てろカス。
結局ハクヤと粘液を避けながら会話をした結果、一時撤退する事が決まった。
初探索でお宝が見つからなかったのは悔しいがイブの事を思えば仕方ない。流石にいつまでもタオルで包まれているだけでは恥ずかしいだろう。
ほら、今も恥ずかしそうにタオルを抱き締めながら………ハクヤを狙ってスキルを撃っています。
「ノヴァ・ブラスターなの!」
「はははははっ!そんなスキル如きに引っ掛かる僕では無いね」
やっぱ帰らなくて良いんじゃねえかな。
ひとまずタオルがズレてきているので強引にイブを止めるとがっちりと手を繋ぎ余計な行動を制限する。
「エルス、この状況から逃げる事って出来たりするか?」
「スライムの足が速いなどとはあまり聞いた事が無いですし…恐らく大丈夫かと」
よし、なら問題は無いな。目安としてはハクヤが魔法を撃ち終わったタイミングで走り出す。それなら粘液に引っ掛かる事も無いだろう。
少しミスったとしても犠牲になるのはスライムに一番近いハクヤだけだ。
「次のタイミングで上層への階段まで走り抜けるからな……!」
「了解しました!」
「走るの!」
二人から元気な反応を貰えたところで声を上げ、ハクヤへと合図を送る。
「ハクヤッ!いけっ!」
「ネオライト・フォトンプラズマッ!!!」
ハクヤから放たれた雷撃はメルトスライムへ一直線で空気を穿いていく。
「っしゃッ!走れッ!」
俺へと続く形でイブとエルスが走り出す。
そして、メルトスライムに雷撃が直撃した瞬間だ。流石のメルトスライムもハクヤの雷属性上級魔法は簡単に吸収出来ないのか雷撃の塊に対して何か踏ん張っている様子が見られる。
「好都合だね」
そしてその様子を見てすぐさま後ろを向いたハクヤも俺達目掛けて走り出す。後は上層への階段を駆け上がるだけ。
これで、全て解決………するはずだった。
次の瞬間だ。
「ぷにぃ…」
「「ん?」」
突如、ハクヤの魔法を取り込んだメルトスライムが縦に細くなっていく。これじゃあまるで……と考える俺だが、それよりも早くメルトスライムは最悪な選択肢を取った。
メルトスライムが音を立てて、より縦長へと変形していく。また、縦長のスライムはだんだん裂けて……
「おいおいおいおいっ!?」
「これは……マズイね」
全てを察した俺達から余裕のある表情が消えていく。
振り向きながら走っているだけだが心臓がバクバクし、焦りが止まらない。
そして、その焦りは瞬間的に爆発した。
「来るぞッ!」
声に反応した?いや、そうでは無い。俺が声を上げたのは既に人型メルトスライムがこちらへ走り出した後だった。
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