第73話 世間的に
「さて、中層に着いたのは良いんだが気になる事が一つ…」
「そう…ですね。私もこんなダンジョンは初めて見るかもしれません」
「見事な一本道だね」
「なのー!」
階段を降りた先が中層だった事は予想通りと言える。だが、一本道のダンジョンなど聞いたことが無い。少なくともこのダンジョンは一本道では無かったはずだ。
となるとこの道は何処へ続いているのだろうか?
「未開の地……ワクワクしませんか!」
「ったく……あんまりはしゃいでると何も無かったとき辛いからな?」
「そう言うワタルさんこそ内心お宝が見つかるかもとドキドキですよね?先程扉を見つける際、声を上げて走ってたの舐め回すように見てましたからね?」
きっしょ、二度とこっち見るな。
そんな口論しつつもぐんぐん進んで行く俺達。今のところ特に変わったことは無い。しいて言えばモンスターをあまり見かけないことぐらいか?
「思ったより順調ですね…。この道はモンスターがいないのでしょうか?」
「ああ、驚くくらいに順調だな。でも良く考えてみろ。俺達は順調な時ほど――」
完全なフラグ。そしてそれを見逃さなかったモンスターは岩陰から姿を現した。
プニ……プニ……プニュゥ…
「スライム……?」
出て来たのは緑色の大型スライム。普通のスライムと違い体内の核が3つあるのが分かる。
「核が3つって事は上位種か。エルス、知ってるか?」
「多分メルトスライムじゃないですかね?ここまで大きいのは見たことがありませんが色はそっくりです!」
「へぇ…。強いのか?」
「強い……と言うよりは厄介です。メルトスライムの出す粘液は肌へ害は無いんですが人の服や剣などを溶かしてしまうんですよね。ダンジョンではお馴染み通称スケベスライムで――」
「「後方支援に徹します」」
「死んでください」
申し訳無いが言い返せる気がしない。
「こんな時にふざけないで下さいよ!ワタルさんとハクヤさんが後方へ行ったら私が前衛に行かなきゃならないじゃないですか!」
「行けばいいと思うが?」
「この悪魔ッ!」
「うるせえ!普段美少女アピールしてるのは誰だよ!今がチャンスだぞ…ってやべッ」
俺達が喧嘩している間律儀にモンスターが待っていてくれるはずもない。距離を詰めて来たメルトスライムが粘液を発射してくる。
幸い発射スピードは遅く、見てから避けられるのが救いだ。
ビチャビチャッ!……ジュッ……
俺の少し左へ着弾した粘液が音を立てて消えていく。流石にダンジョン自体を溶かすことは不可能なようだ。
「お前ら大丈夫か?」
「私はなんともないです!」
少し残念だがまあ、よし。
「僕も平気だね」
興味無し。
「何かベタベタするの……」
ぎゃあああああああああああッ!!!!
「世間的に!世間的にマズイです!」
「おりゃああああああああっ!!!」
俺はぽかんとしているイブの元へ走って行くと急いで準備していたタオルでイブをぐるぐる巻きにする。
「本当に大丈夫かっ!?」
「平気なの!」
唯一残った杖を抱き締めながらニコニコとしているイブ。少し危なっかしいな。
「おい、あのスライムどうすんだよ!」
「と、取り敢えず体内の核が弱点って言うのは聞いたことあります!」
「常識だね」
「それならッ!」
メルトスライムは大型なスライムだけあって動き自体は遅いようだ。回り込みさえすれば……
予想通りメルトスライムは回り込んだ俺への対処に遅れる。となればその一瞬、こちらにも余裕が出来るわけだ。
「終わりだよッ!サンダーッ!………ん?」
「ん?」
「ぷにぃ…?」
……全然魔法効かねえや。
「ワタルさん危ない!」
「ぷよっ」
「うおッ!?」
再び飛んでくる粘液を避けつつも確信した事がある。……恐らく俺にこいつを倒す手段は無い。強いて言えばエレメンタルドライブだがデメリットでしかない。探索だから邪魔になると考えてあの美少女杖を宿に置いてきたのはミスだな。
ちなみにダンジョンはペット禁止なので雌豚もお留守番である。
「……中層にしては強いな」
「そうですね。事前情報ではたまにリンゴを片手に持ち、水着を着たオークがいるとしか聞いていなかったのですが……」
ちょっと気になるじゃねえか。
「まあ、中層って言っても別ルートだし仕方ないよな。まずはこいつを倒さねえと先に進めねえ」
実のところ中層でこのレベルのモンスターが出て来るのはこの先にお宝が眠ってる事を暗示している可能性がある。今撤退しないのもそれが本当だった場合に相当な儲けになるからだ。
「よし、ハクヤは魔法。イブ……は俺と仲良く観戦。エルスは粘液にでもダイブしていてくれ」
「さり気なく一人で戦わせようとするのは止めてくれたまえ」
一人に押し付けた中ボス戦の開始だ。
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