第72話 3桁の数字

 もはや欲望を隠さず走る俺とエルスは互いに押し合うようにしてダンジョン内を逆走する。


「えっと…壁画があった場所は……」


「こっちですワタルさん!」


 変に役立つエルスと共に壁画の元あった場所へ辿り着くと一目瞭然。既に壁画はイブによって破壊されており、裏には取手の無い鉄で出来た扉がある。

 ……てか、壁画壊して怒られるとか流石にねえよな?ダンジョンはセーフだよな?


 余計な心配をしながらも俺は木の扉を押してみる。


「……開きそうにねえな」


「この岩だらけのダンジョンの中にこの鉄の扉ってやっぱり怪しいですよね……。何か細工でもされていたりしませんかね?」


「細工?」


「なるほど、謎を解いて開くみたいだね」


「謎?」


「この数字さ」


「この数字なの!」


 ようやく追い付いて来たハクヤとイブは息ぴったりで扉のど真ん中を指差した。

 扉のど真ん中には3桁の数字を打ち込むためのキラキラ光る石版の様なものが埋め込まれている。


「数字って言われてもな……。えっと、適当に打ち込めばいいのか?」


「適当に打ち込んで爆発でもしたらどうするんですか?」


「耐えればいいさ」


 一人で巻き込まれてろ。


「そうだな。ここは慎重に――」


 落ち着いて考える事にする。何かこのダンジョンと繋がりのありそうな3桁の数字と言えば……


 いや、知るかよ。


 周りを見ればエルス達も同じ事を考えているようでぽかんとダンジョンの天井を見上げていた。だがもちろん簡単に思いつくはずも無く、


「……手あたり次第打ち込んでみません?」


 エルスの一言に全員が頷くのだった。


「誰が最初に行く?」


 だが、問題はこちらだ。この扉にどんな罠が仕掛けられているか俺達は知らない。


「爆発……他にも毒ガスが噴射されるみたいな事もあるかもしれませんね」


「全部余裕だね」


 さっさといけこのサイボーグ野郎ッ!


 いざ、打ち込み開始。ハクヤが扉の前に立ち、俺達は少し離れた位置で見守る。


「お、打ち込み始めたぞ!」


「ここからだと見えませんが……あ、戻って来ました!」


 あたかも『やりました!』みたいな顔で戻って来るハクヤに不審感を懐きつつも話を聞く。


「ハクヤ、扉は開いたか?」


「開いていない可能性の方が少しだけ高い気がするね」


 無駄すぎる見栄を張るな。


「次はイブが行くの!」


「あ、ちょっ!危ないぞ!」


 楽しそうに走っていくイブを止めようとするがもう打ち込むのが楽しみなのか聞こえていないようだ。


「まぁ、ハクヤさんに何も無かったみたいなので大丈夫ですよ!」


「……それもそうだな」 

 

 落ち着いた俺は岩陰に隠れ再度ハクヤと同じ様にイブを見守る。


「あ、ちなみにハクヤはどんな数字を打ち込んだんだ?」


「身長だね」 

 

 クソ適当じゃねえか。



 そんな事を話している内にイブが数字を打ち込んだようで石版をタッチしている。


「扉は……開いてないな」


 遠くから見ても分かるように一ミリたりとも扉は動いていない。

 だがその瞬間、妙な空気が流れた。


「あ、イブちゃんが杖を構え――」


「ムーンスラッシュなの!」


 エルスが最後まで言う前にイブの前の扉は一刀両断。ガタガタガタッ!と鉄の扉が崩れ落ちる。


 そして啞然としている俺達の前までイブは嬉しそうに走って来て言った。


「打ち込んだら開いたの!」


 スキルをな。


「………よ、良く出来ました」


 何か間違っている……いや、大いに間違っている気がするが扉が開いた事に変わりは無い。


「失礼します…」


 よほど褒めて欲しいのか擦り寄ってくるイブを撫で、気まずい気持ちもありながら扉のあった場所を通る。が…、


「階段……か」


「怖い話はよしてくれたまえ」


 無視でいいな。


「中層へ繋がってたりするんでしょうか?」


「そうみたいだな。ただ、中層って言ってもこの扉からしか行けない場所って事じゃないか?」


「なるほど、それなら私達が初探索って事になりますね。お宝を見つけるチャンスじゃないですか!」


「そうだな。でも中層にもモンスターがいるからそれには気を付けてくれよ?」


 変にテンションが上がって致命的なミスをされても困るので念の為注意はしておく。


 そして、気持ちが整ったところでいざ階段を降りていく。壁などがかなり汚れている事から長い間誰も通っていなかった事が分かるな。もしかしたら本当にお宝が眠っている場合もあるんじゃないだろうか?


 さほど階段は長くなく、あっという間に中層が見えて来た。


「お、やっぱり中層だったな。お前ら、武器準備忘れるなよ」


「ここからが探索本番ですね!」


 さあ、中層探索の始まりだ。

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