第71話 上層
「準備は出来たかッ!」
「「「おー!」」」
ダンジョンを前にテンションが上がったのか、号令をかける不思議なパーティー。
ダンジョンでの探索を終えた冒険者が物珍しそうにチラチラ見ているが誰一人として気にする事は無く騒いでいる。
……もちろん、俺達だ。
「よし、そこそこ身なりも整ってる事だし返済目指して頑張ろうぜ?」
「そうですね!ここは踏破済みダンジョンの中でも新しい方なので期待出来るかと!」
エルスの言う通りここはそこそこ新しいダンジョンだ。2ヶ月前に見つかって以来、冒険者によって攻略されたらしい。
だがその際、隠し部屋が一つしか見つからなかった事からまだ見つかってない隠し部屋があるのではないかと噂されている。
「つっても隠し部屋なんてそう簡単に見つかるもんなのか?」
「近くのボタンを片っ端から押せば見つかるはずさ」
お前とだけは行動を共にしたくない。
「まあまあ、まだ入っても無いんですからそんな事を考えても仕方ありません!ワタルさん!行きましょう!」
「……そんなお前はどう見つける気なのか聞いてもいいか?」
「正直な事を言うと返済には興味無くてワタルさんたちが何か酷い目にあってくれれば私
にとってそれが宝物です」
帰ってくれ。
「ごーなの!」
「……おう」
と、ド変態シスターは無視してイブの手を握ると俺は中の様子を伺いながらも、ようやくダンジョンへと足を踏み入れるのだった。
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案の定、ダンジョン内はモンスターで溢れていた。俺はビビりながらも進むがもちろん何事も無く進めるはずもない。
キュルキュルキュルキュルッ!
「うわッ!?何だこいつッ!」
「ワタルさん落ち着いて下さい!恐らくグレイスバットです!」
「グレイスバットッ!?」
「はい!ダンジョン内に侵入して来た冒険者の生命力を吸うモンスターです!吸われても命に別条は無いのでご安心を」
「そ、そうか…なら良かった」
「たまに噛まれたとこから病気に感染するかも知れないって情報はいりますか?」
「ぎゃあああああああああッ!!!!!?」
逃げ惑う俺に、茶化すエルス。踏み入れて間も無いはずのダンジョン内はとても騒がしくなっており、その音を聞いたモンスターもぞろぞろと集まってくる。
「おいハクヤッ!そっちから来てるミイラなんとかしてくれッ!」
「任せてくれたまえ。ストーンバレット!」
数々の岩が飛び、ミイラの進行を止める。
「いいぞッ!やれば出来るじゃねえか!」
後ろを気にする必要が無くなれば後は簡単な事だ。
「サンダーッ!」
幸いグレイスバットは強いモンスターでは無いため、俺のサンダーで処理が可能。つまりはこの一連のピンチを乗り切ることが出来る……って訳よ。
これには壁画を砕いて遊んでいたイブも堪らず拍手喝采。俺達の成長を感じるな。
「やりましたねワタルさん!危なげ無くモンスターを討伐したのってこれが初めてじゃないですか?」
「それも…そうかもな…」
事実ではあるのだがそれを言われると何故か悲しいような、恥ずかしいような……。
未だにぱちぱちと拍手をしてくれているイブを見ていると何か余計気恥ずかしい。
「と、とにかくこの辺のモンスターはもう大体倒した事だし先進むか」
「その前に少しいいかい?」
恥ずかしさから逃れようとさっさと中層へ降りようとしていた俺だがハクヤの声で足が止まった。
「……どうした?何か宝でも見つけたか?」
「宝…とは違うみたいだけどこんなものが」
ひらかれたハクヤの手に乗っかっているのは小さなカギ。それも汚れや苔など一切付いていないキレイなカギだ。
先程ダンジョンへ来た誰かが家のカギでも落としてしまったのだろうか?
「拾ったのか?」
「ああ、君の倒したグレイスバットが予め持っていたカギさ。倒した時に落ちたよ」
「さっきのか……分かった。取り敢えず持っておくから貸してくれ」
これはギルドに戻った時にでも預けておけばいいか。と、一息付いたところで状況を把握する。
現在、俺たちがいるのは上層のはずだ。そして、もう少し行った先の階段から中層へ降りることができる。
上層には特に目ぼしいアイテムも無く、隠し部屋とやらも見つかりはしなかった。
罠も無かったことから本番はやはり中層からなのかもしれないな。
「う〜ん…歩いていればポンポン金銀財宝が見つかる予定だったんですけどね……」
ダンジョン舐め過ぎかよ。
「……その気持ちは大事だが、そんな簡単なもんじゃねえよな。イブは何か怪しいもん見つけたりしてないか?」
「ん…無かったの…」
俺達が戦っている間イブは壁画を破壊し、近くの岩もぶち壊していた。目的は意味不明だが、それでも見つからないと言う事はこの周辺には無いのだろう。
「壁画の後ろの変な扉しか無かったの」
前言撤回走れッ!!!!
それからの行動は速かった。顔を見合わせた俺達は叫び、地面を蹴る。
「「宝ッ!」」
それはそれは醜く壁画へ走る俺達だった。
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