第70話 踏破済みダンジョン
「屋台……ですか?」
「ああ、これを見てくれ」
叩きつけた紙を広げると、エルスは目を丸くしてぽかんと口を開けたまま呟く。
「勇者祭……」
「そうだ。ここに書いてある通りだが、つい最近この街に召喚された勇者ってのが今まで誰も踏破する事が出来なかったダンジョンを攻略したらしい」
「つまりそのお祝いって訳だね。……ふむ」
「まあ、そういう事だな」
いつの間にか調子の戻っていたハクヤは頷くと静かに紙を見て目を閉じた。何かを考えている様子だ。
俺はそんな姿を見ているとどこかハクヤに違和感を感じる。この街に来てからの事だろうか?何故か常に気を張っているようなイメージだ。城であの好青年に何か言われていたこともありもしかしたらハクヤはこの町で何かあったのかも知れない。
…少なくとも良いことでは無さそうだが。
「それでだ、ここを見てくれ」
「文字が書いてありますが何か?」
これ性格出るだろ。
「冗談ですって!えっと、『祭りに伴ってそこで開かれる屋台を募集する』……なるほど。祭りなら人も多いでしょうし屋台を出してガッポリと稼ごうって魂胆ですね!」
「凄いの!お金いっぱい巻き上げるの!」
言い方が非常に悪い。
「これこそ千載一遇のチャンスだと俺は思うんだ。ここで屋台出して、お金を一気に貯めて返済。そしてすぐにこの街を出発して先へと進む。そしたら……そしたら―――」
言葉が詰まる。
あれ?俺達何処に向かって旅を…って呪いだろ。その為にドワンウルゴへ……ん?
「……なあ、この街、と言うかこの国ってドワンウルゴからどれだけ離れてるか分かるやついるか?」
恐らくこれは考える事を脳が拒否していた事だ。本来ならば最初に聞くべきだった。
すると、ドキドキしながらも震えた声で聞く俺にハクヤはすぐに反応を示す。
「僕の記憶上、ここから僕達の出会ったエリーズまでが馬車で約20日…と言ったところだね」
「方角は?」
「あっちだね」
ぶん殴るぞ。
ギルドで周辺の国、そして街を調べるとそれはすぐに明らかになった。
俺達が今いる場所、アルマリーゼ王国の首都デサールは呪いを解くことが出来ると噂の人がいる街を挟み、ブライテスト王国、ドワンウルゴの反対側にあるのだ。
そして、互いに呪いを解くことが出来ると街まではあと少し。
「へえ……、距離的にはあまり遠くなって無いみたいだな。少し心が軽くなったよ」
「浮かぶのかい?」
軽くなったところで浮かばねえよ。
「それで、話は戻りますけど屋台を出すってそんなに簡単な事なんですか?」
「一応ギルドに申請する事で屋台は出せるみたいだぞ。ただ、俺達は屋台を元から持ってるわけでも無いしレンタルって事にはなりそうだけどな」
売る物、屋台、出店費はどうやら自分達で何とかする必要がありそうだ。初期費用はかかるが城の請求額に比べれば大したことは無い。それに『勇者祭』なんて名前が付いているんだ。屋台さえ出せばそれを超える売上も期待できる。
「でも、それなら結局クエストは受けなきゃいけませんね。せっかくですしダンジョンに行ってみませんか?」
「ダンジョンか……踏破済みのダンジョンなんて行っても稼げなく無いか?」
「ちっちっち……ワタルさんには夢が無いですね〜。ダンジョンには隠し部屋がいくつもあるんです!意外とまだ見つかってない部屋があるかも知れませんよ?」
「極めて低い確率だがな」
本来踏破済みのダンジョンは金策では無く戦闘訓練や一定時間ごとにランダムで現れるアイテム収集で使われる事が多い。
ただ、隠し部屋と言うロマンを求めてダンジョンへ足を踏み入れている人がいるのも確かだ。
「中で見つけたアイテムはお金と交換する事も出来ますし……」
手を合わせて頼み込んでくるエルス。隣では何も理解していないであろうイブも手を合わせている。
更にその隣ではハクヤがキメ顔でグッジョブしているのであれには唾でも吐いておく。
「……まあ、そこまで考えてるなら一度くらいは行ってもいいけどな」
「本当ですか!楽しみです!」
「エルスがこんな事で喜んでくれるなら俺も良かったよ。準備だけは欠かさずにな?」
「はい!ダンジョン内には拘束系の罠や毒を吐く敵が多数存在するようなのでそれに引っ掛かるワタルさん達の顔を想像すると今から楽しみです!」
俺、今からこいつひん剥いても文句言われねえよな。
「それは聞き捨てならないね」
おっと、流石にハクヤもカチンと来たらしいな。言ってやれ。
「僕は罠感知スキルを持っているから罠には引っ掛からないさ。引っ掛かるとしてもそれは君達だけさ」
ハクヤに俺のローキックが炸裂する。
「もちろん俺達のためにそのスキル使うんだよなッ!?」
「僕の罠感知スキルは追加効果で罠把握無効と罠自動回避が付いているからそれは無理なお願いだね」
ゴミばっかじゃん。
「クソ…つまりハクヤは自動で避けるけど罠の位置は把握出来ませんってか?もはやただのアビリティじゃねえか」
「仕方ないですよ。まあ、その点私は後衛でサポートなので引っ掛かったワタルさんを嘲笑いながらその苦痛に歪む顔をじっくり鑑賞します」
「この変態が……、イブはどうだ?イブは罠感知みたいなの持ってたり――」
「罠は来たら避ければいいの!」
脳筋幼女がッ!
もはや味方はいない。俺は孤独。地面に手を付き、膝から崩れ落ちる。
だが、そんな俺を見捨てず、救いを差し伸べる小さな手が背中にそっと触れた。
「おにーちゃんはイブが守ってあげるの!」
「イブ……」
いや、6歳も年下の女の子に守られながらダンジョンをビクビク探索する自分を想像すると死にたくなるんだが。
世の中は不公平である。
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