第69話 教育上良く無い
朝が来た。憂鬱な朝だ。これからの事を考えるとベッドから降りたくない。
そんな調子でゴロゴロした俺は挙句の果てにもう一度布団を被り、二度寝へと……
コンコンッ――ガチャガチャ…べキンッ!
「のッ!!!」
とても嫌な音と共に勢い良く扉が開く。
「朝なの!冒険なの!」
薄目でチラッと確認すると大きな声を上げ入って来たのは毎日早起きなイブ。新しいパジャマを着てご機嫌なのかぴょんぴょんしている。
ちなみにこのパジャマは昨日の夜、ドワンウルゴ置いて来てしまった部屋着の代わりを探していた際服屋で見つけたものだ。
いつまでも下着で寝るのは嫌だからな。
「お寝坊さんなの!」
イブが部屋の中を徘徊する中、俺は起きていることを悟られぬようひっそりと息を潜める。たまには一日休んでもいいよな……。
「……起きるのー!」
目を瞑っていてどんな様子かはよく分からないが掛け布団をぐいぐい引っ張られている事は分かる。
だが、ここで諦めてしまっては休みなど来るはずもない。ここは心を鬼にして寝たふりを………。そんな事を思っているうちに気付くと近くにイブの気配は無くなっている。
諦めて部屋へ戻ったか?
と、油断して薄く目を開けた時だ。
俺の前に映ったのはハクヤを片手で持ち上げ、何故かこちらへ構えるイブ。
「ッ!?」
「……せーの!」
「いや、それは無――ッ!?」
新たな一日の始まりだ。
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「いいか?人は投げちゃ駄目だ。もし投げたのがハクヤじゃなかったら大惨事だ」
「で、でも投げたのはハクヤなの!」
「それとこれとは話が別で……」
早朝、朝食を囲みながら俺はイブに説教をしていた。普段から多少攻撃的な印象があるイブだが今までは幼いからとスルーしていたがこのまま育っても教育上良く無いので念の為だ。
「まあまあ、ワタルさん。イブちゃんも反省している事ですし……」
「反省なの……」
何をエルスに吹き込まれたのか上目使いで目を潤々させるイブ。こうなってくると俺は弱い。
「ほら、それにハクヤさんも気にしてないそうですし」
「僕は気にしてない。僕は気にしてない。僕は気にしてない。僕は気にしてない。僕は気にしてない」
頭打っておかしくなっちゃった……。
もはや同じ言葉を連呼する機械のようになっているハクヤ。中々に不憫だがハクヤなので取り敢えずは放置だ。そのうち気付いたら復活している気もするからな。
「……はぁ、分かってくれればいいよ。イブも女の子なんだからあんまり暴れる様な事さするなよ?」
「分かったの!」
「分かったよ。分かったよ。分かったよ。分かったよ。分かったよ。分かったよ」
「うるさいのっ!」
イブの鋭い一撃がハクヤを宿の天井まで吹き飛ばす。が、受け身は取っていたようで天井を蹴って降りてくるハクヤ。
「見てくださいワタルさん!クリームパスタの中に星型のニンジンが!」
ついでにまるでイブ達には目もくれず星型のニンジンを見せびらかして来るエルス。
「……取り敢えず犯罪だけはするなよ」
「私達既に犯罪者みたいなもんですけどね」
「うるさい。うるさい。うるさい」
「ワタルさんまでおかしくなるの止めてもらって良いですか?」
俺はこいつら全員を纏める事が不可能だと静かに悟るのだった。
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「一発で借金を全て返済出来そうなクエストはっと……」
現在、朝食を終えギルドへ足を運んだ俺達は各自金になるクエストを探している。
だが現実はあまりにも厳しい。俺達はイッカクベレッグ駆除でDランクへと上がったのだが、たかがDランク。報酬の多いクエストなど殆ど存在しない。
一応、どのランク帯の冒険者でも受けることの出来るフリークエストと言うものもあるが、基本的にクリア済みダンジョンの探索なので金にはならないだろう。
「どうしたものか……」
途方に暮れる俺だが、諦める訳にもいかない。何か効率の良さそうな―――あ。
クエストを片っ端から見ていく中、クエストボードの横に『それ』は突然見つかった。
ウダウダしていられず、すぐにイブ達を集めると俺は『それ』を机に叩き付け言った。
「よし、屋台出すぞ」
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