第68話 協力は大事

「……イブの卵は何処なの?」

 

 不意に来た地獄。事情を知る俺含む3名は心臓をバクバクさせながら互いに顔を見合わせる。


「……こっち見んなよ」


「……死ぬ時は一緒です」


「僕の事は何故無視するんだい?」


 ――ガタンッ


「「「ひぇッ!?」」」


 そんな挙動がどうも不審に思ったのかイブが席を立ってトコトコと俺の前までやって来る。対して物凄い汗を額に滲ませ、下を向く俺達。

 ……殺気と言うか、オーラが凄い。


 そして、肝心の雌豚は自分はまるで関係ないかの様に俺の肩でそっぽを向いている。


「ずっと気になってた事があるの」


「お、おう…どうかしたか?」


 取り繕った笑顔で対応する。もし、このまま話題をずらす事が出来れば……!


「その喋るクワガタさんは誰なの?」


 無理そうじゃん。


「……ハクヤが採ってきた」 


「ッ!?」


 ハクヤが物凄い顔でこっちを見ているが目を逸らして無視。俺達は仲間、協力は大事なのだ。  

 ボソッとエルスが「人間のする事とは思えない…」と呟いていたが気にする事はない。


「ハクヤなの?」 


「え、え?いや、その……僕だね…」


 俺達の圧に負けたハクヤはビビりながらも口にする。 

 さて、冤罪が誕生した訳だがまだ助かった訳でもない。ここでハクヤがどう切り抜けるかによって俺達の命運も決まる。

 

「本当にハクヤが採ってきたの?」


 苦笑いをしつつ手を震えさせるハクヤは何かを閃いたのかゆっくりと口を開いた。


「その…クワガタは……」 


 頑張れッ!


「……エルスが産んだ個体だね」


 ひえええええええええええッ!!!!?


 もはや正気の沙汰とは思えない発言に俺は目眩で倒れそうになる。

 ……まあ、隣でお腹と雌豚を交互に見比べながら絶句するエルスよりはマシだが。


「エルスおねーちゃんの子供なの?」


「ち、違いますって!そのクワガタはその…あれですよ……あれ……そう!コウノトリが運んで来たんです!」


 うちのパーティーはアホしか居ません。


「コウノトリ…なの?鳥さんがクワガタさんを運んでくるの?」 


「そうなんですよ!ほら、イブちゃん見ましたよね!さっきギルドの掲示板に小さい子が何者かに連れ去られたって張り紙!簡単に説明するとその子供を受け取ったみたいな感じです!」

 

 それは誘拐だが。


「ん…難しい事は分からないの……」


 本当にイブが幼くて良かった。だいぶ変な方向に話は進んだが、これで解決――


「じゃあ、卵は何処なの?」


 初めに戻っちゃったあ…。


 軽く絶望してる場合ではない。卵が割れていた際、こうなる事は予測出来てたはずなのだ。後は本当の事を言う勇気だけ。


「あ、あのなイブ……本当は……」

 

「の?」


 その時だ。


(ママ……落ち着いて……)  


「やっぱり喋ったの!」


 俺の肩でそっぽを向いていた雌豚がイブの方へ飛んでいく。対してイブはあまり喋る雌豚を見ていなかったからか俺の袖を引っ張ってはぴょんぴょんしている。何とも可愛らしい光景だがここからが本番だ。

 雌豚はイブの出した手にとまると静かに語りかける。


(ママ……パパは悪く…無いよ……)


「?」

  

 そりゃそうだ。急にママなんて言われてもイブが理解出来るはずがない。

 ……仕方ない無いが騙し続けるのも気が引けるのし本当の事を言ってみるか…。


「……あのなイブ、そのクワガタはあの卵が孵って産まれたんだ」


「の!?」


(ママが……ずっと…抱いてくれてたの……覚えてる……よ……)


「そ、そうなの…」


 照れた様子で驚いたと言うよりは困っている様な状況。おそらくは突然の告白に頭が真っ白になっているのだろう。


「ほら、イブがずっと抱いてた卵から産まれたクワガタだ。イブの子供って事もあながち間違いじゃないだろ?」


「そ、それは……そうなの!」  


 再びじっと雌豚を見つめるイブ。ママと言われ母性本能でも働いてるのだろうか?

 そんな光景も思わず和んでしまう。


「えっと…どうにか解決……か?」


「セーフですかね……。雌豚ちゃんが喋り出さなかったら今頃私達今頃土の中です」


「まるで冬眠だね」


 意味分からん。お前は一生冬眠してろ。


 こうしてどうにか誤魔化した?訳だが一つ重りが落ちたみたいですっきりしたな。

 後はクワガタを嬉しそうに見つめてるイブを見て楽しめば皆無事だ。


「いや〜良かったなイブ。これからはイブがちゃんとお世話するんだぞ?」


「頑張るの!」


 ぐっ…と拳を握りぴょんぴょんする可愛らしい幼女。これが眼福ってや――


「ところで名前は決めたの?」


「僕が付けたさ。命名、雌豚――がッ!?」


 この日、初めて俺は人が壁を貫通して外へ吹き飛んでいく様子を見た。

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