第67話 直接殺る
「うおおおいっ!ヘルプ!ヘループッ!」
「任せて下さい!ここまでくれば網で捕らえることが――出来ませんでした!あとは頼みますハクヤさんっ!」
エルスの持つ網を持ち前の角で貫いたその魚モンスターは水面から高く跳び立ち、俺目掛けて突っ込んでくる。
「ハクヤッ!早くッ!ひええええッ!!!」
「ネオウィンド・トルネ――ふむ、これだと巻き込んでしまうね」
バカッ!悩むなおいッ!
「ぎゃああああああああッ!!!!」
間に合うはずもなく魚モンスターが俺の腹へ突き刺さる。モンスターが池へ戻って行くのと同時にエルス達が近寄って来るが俺の意識はどんどん薄れていく。
「ぐぅ……これ…やべぇ……か、回復……」
「反応と顔は百点だと思いました!」
「受け身は良かったの!」
「安らかに眠ってくれたまえ」
俺に対する心配はねえのかよ。
「そんな……ことより…エルス、回復……」
血も滲んで目の前もだんだんと真っ白になって来た。このままだと意識が……
「ワタルさーん!ハイ、ピース!」
おのれ、この悪魔めがァッ!
その後、エルスのスキルによって完全復活を遂げた俺はすぐさまエルスの尻に蹴りを入れたが文句の言われる筋合いは無い。
「はぁ……Eランクの依頼でもここまで辛いんだな」
「ワタルの実力不足だね」
キレてもいいか?
と、こうなったのにも原因がある。
昨日の夜、500万ギルの請求書を見た俺はすぐさまハクヤと話し合いこの街のギルドでクエストを遂行し稼ぐ事を決めた。
そして選ばれたのがこのクエスト。依頼内容は最近街近くの釣り堀に出現した魚型モンスターを討伐して欲しいと言ったものだ。
調べてみるとどうやらなかなか厄介なモンスターらしく、池の魚を食い荒らしては持ち前のジャンプで住処を変えるらしい。一匹ずつ処理すればそこまで難しくないと聞いていたのだが……
「何だよあれ…凄い跳ねるじゃねえか…」
「えっと、確かイッカクベレックは住処を移動する際、最大で2キロ先まで跳ねるそうですよ」
「に加えてあの角か……」
「普通はタンクがガードしてそこを攻撃するみたいですけどね。時代の最先端を行った私達のパーティーでは少し厳しいかと」
何故ここまでこのパーティーを誇れるのか分からないが確かに今の釣って網で取るなどといった原始的な方法では厳しいのは確か。
だが、他に策が見つかる訳でも無い。仲間に聞いても返ってくる答えは脳筋のような策だろう。
「……一応聞くが他に案とかって――」
「やはり潜って直接殺るのが一番だね」
こういう事です。
「はぁ、でも後はそれしか手段が残って無いよなぁ……」
「ワタルさん泳げるんですか?」
「ん?ああ、小さい頃川で遊ぶ事が多かったからな。そこそこ得意だぜ!」
子供の頃から泳ぎに関しては友達にも負けたこと無いからな。こんぐらいは自信を持って言って良いはず……。
予備の着替えは現在、下着ぐらいしか無いため不格好だがパンツ一丁で挑む。
途中、イブが一緒に潜りたいと脱ぎ始めた事件はあったが絵面を考慮し大人しくしててもらうことが決まった。
「……すみません。イブちゃんに悪影響なので早めに終わらせてください」
隙を見て沈めるぞこら。
「さてと…ってハクヤさぁ……」
俺が雌豚をエルスの頭へ預け、ポケット完備の折りたたみ式ナイフを構えると同時にパンツ一丁の変態男が横へ並んで来た。
「僕も行こう。ワタルだけでは心配だ」
「……いいけど余計な事すんなよ?」
「それは神のみぞ知るね」
せめて否定ぐらいしてくれッ!?
互いに言い争いながらも素晴らしいフォームで潜っていく俺達。釣り堀はそこまで広い訳でも無い為、30メートルも泳げば端へ着くようだ。
そして潜って見れば問題は明らか。元々池にいたはずの魚がいないのだ。
「―――ぷはぁ……こりゃ酷えな。下の方はイッカクベレッグだらけじゃねえか」
「ブクブクブク…ブクブクブク?」
水中から顔出せバカ。
「おやおや、あれを見てビビってしまったのかい?」
「うるせえ。ほら、お前もそのデュソルエレイザーだかでやるんだろ?行くぞ」
覚悟を決めた俺はゆっくりと潜っていき集団からはぐれたイッカクベレッグを狙いながら着々と討伐していく。
どうやら視野が狭く奇襲には弱いようで後ろから近付けば簡単にナイフで刺すことが出来る。
「――ぷはぁ…そっちはどうだ?」
「ふむ、数が多いね」
「だな。でもあれだからな?雷属性の魔法とか使うんじゃねえぞ?俺達が逃げられなくなるからな?」
念の為釘を刺しておく。これまで勝手な行動で酷い目にあってきた教訓だ。
「分かっているさ。僕はそんな愚かな事をするバカでは無い」
バカだが。
「だが、時間がかかってしまう。スキルの使用は構わないね?」
「それぐらいなら……ん?いや、スキルって言ったか?それはマズ――」
一度了承したのが失敗。既に止める手段は残されていなかった。
「これでモンスターも余裕で一網打尽さッ!ボルテクスキャノンッ!」
ハクヤが声に出した途端空に浮かぶ雲が唐突に渦を巻く。
「おい、そのスキル説明してみろ」
「ランダムでデュソルエレイザーに属性強化を施しその力を向けた方向へ放出させる事が出来る」
「……ランダムってのは?」
「火、水、風、土………か、雷…」
「あああああああああああああッ!!!!」
雲の境目より雷が落ちてくる。目を瞑るよりも早く目の前は真っ暗になり、俺とハクヤは吹き飛ぶ。
そして落雷が落ちた場所、そこには水一滴残る事は無かった。
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「一日で二度死にかけたんだけど」
「とても珍しい体験ですね!誇っても良いんですよ!」
おちょくってんのか。
現在、自慢の耐久力で一命を取り留めた俺は宿で食事しながら愚痴を吐いている。
あの後、モンスターを倒したということで依頼達成にはなったが釣り堀の修繕費と言う事で新たに請求書が増えた。
こんなの笑うしか無い。
「ははははは!ピンチがあるとより一層活躍するときが輝くね」
お前は笑うな。
「まぁ…でもひとまず宿代ぐらいはどうにかなりそうですしこれからまた稼げば……」
「そうだな。明日は他にも稼げそうなクエストが無いか探してみようぜ?」
「あ、それならさっきファイヤーワイバーンの卵を盗んで来いってクエストがありましたよ!1500万ギルです!」
「バーカ、誰がそんなおっかねえ事するってんだよ……」
そんなよくある会話が響く宿内。この時の俺は忘れていた。いや、既に忘れているものだと思っていたのだ。
だが、その地雷はふとした瞬間に踏まれてしまった。
「イブの卵……」
ぼそっと聞こえたその言葉に俺達三人は急に固まる。それまでずっと笑っていたハクヤまでもが凍る。
「……イブの卵は何処なの?」
ああ…、俺達は生き残れるのだろうか。
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