第66話 事態の深刻さ

 ガラガラガラ―――ダン――

 

 そんな鉄と鉄が擦れ合う音で俺は目を覚ました。


「……手は動くな……足に何か違和感……」


 ひんやりとした地面を手で這いゆっくりと顔を上げるとすぐにその違和感は目に入ってきた。

 

「……何だこれ?」


 足首に何か鎖のようなものが巻かれており

鎖の先には大きな鉄球が付いている。鎖自体は短く移動は最小限しか出来ないだろう。

 

(ここ……牢屋……みたい……だよ…)


「ひゃッ!?ビックリした……雌豚か…」


 声のする方へ向いてみると何やらよく分からない素材が使われたの入れ物の中で雌豚がじっとこちらを見ていた。


「お、無事だな。イブ達は?」


(パパの……反対側……見て……)


「反対側?」


 俺のいる牢屋なら通路を挟む反対側にも同じような牢屋……いや、この部屋一帯に複数の牢屋があった。

 隙間から覗いて確認する限り、俺から見て通路の反対側がハクヤ、その隣でエルスが気を失っている。

 位置的に俺の横の牢屋はイブだろう。


「全員バラバラか。……よし、取りあえず起こしてみ―――――」


 ズドオオオオオンッ!!!!


 突然の轟音に俺の方まで飛んできた小石、そして牢屋の位置。何となく予想はついているが怖くて横を向けやしない。


「おにーちゃんなの!牢屋が広がったの!」


 広げたんですよね?


 大穴の開いた壁を突き破り嬉しそうに抱きついてくるパワフル幼女。

 何故足に鉄球のついた状態で走ってこれるのか理解に苦しむ。


「……よ、よく無事だったなイブ。何か異変とかは無いか?」


「ん……分からないの」


「なら良いんだ。でもやっぱり武器はやっぱり無いか…」


 イブは特に何も持っていない。俺の杖も消えている事から牢屋に入れられる際取り上げられたのだろう。

 

「きっと悪い人に盗まれちゃったの!取り返しに行くの!反逆なの!」 


「そうだな、でもまずは先に何をして俺達が牢屋に入ってるのか調べなきゃな」

 

 乗り気なイブを撫でながらも、俺は気になる事を頭の中でまとめる。

 

「……なぁ雌豚。落ちるとき俺に何か言ってたよな?あれって結局……」

 

(うん……お城……だよ)


「ああ!城……城、城ッ!?」


 俺達が着地したのがお城の中?って事はかなりマズいな。ここがどんな街かは知らないがかなり大きい街だ。

 そんな街の城に落ちたともなれば……


「……テ、テロ?反逆者?」


「反逆なの!反逆頑張るの!」


 極刑だが。


「ん?ん――」


 イブが可愛く首を傾げているが仕方ない。   

 どんな状態か断定できない以上イブの口を手で塞ぐ。

 

「ワタルさーん、こんな所で発情しないで貰えますかー?」


 寝起きの異常性癖シスターが向こうで何か叫んでいるようだがあれは無視だ。

 隣ではようやくハクヤも目を覚ましたのか目を擦ってあくびをしている。


「ふわぁ、おはよう。良い天気だね」 


 天気は見えねえよ。


 仲間の緊張感の無さに若干安心してしまう俺だがふと我に返りこの事態を冷静に分析してみる。

 まず第一にここがどこかの街にあるお城の牢屋って事は間違いなさそうだ。だが問題は何故牢屋へぶち込まれているか。

 

「……普通に不法侵入か?」


「不法侵入して逃げて、そのまた逃げた先で不法侵入とか大罪人じゃないですかっ!」


「ま、まぁ…事情をある程度伏せながら話せば分かってくれるだろ。多少の尋問はあるかも知れないが……」 


「そうですね……。でも強いて言うならワタルさんは尋問より拷問されて苦痛に顔を歪める時が一番輝くと思います」


 お前は一生牢屋にぶち込まれていてくれ。

 

「捕まった勇者と仲間達……。これは素晴らしい流れだね。盛り上げる為にワタル、少し拷問されて来てくれないかい?」


 釈放後覚えてろよ。


 と、部屋が騒がしくなって来た時だ。外でコツコツ音が鳴り誰かが入って来た。俺達が注目する頃には扉は開いており、扉の前にはパット見で分かる好青年が立っていた。


「君達が侵入者?」


 俺達に聞いているのだろうが目は何故かハクヤの方を向き睨んでいる。気にはなるがまずは説明が先だ。


「ま、まぁ…そうなりますね。けど違うんですよ!今回のは不慮の事故でッ!」 


「ああ、分かっているよ。例えば……『テレポートで高い位置へ出てしまった』とかだったりするんだろう?」


「え、いや、その……そうなんですけど…」


 言い当てられたのは想定外だ。少なくとも変な顔されるのは予想していたんだが……。


「王にも許可は取ってある。すぐに出るといいよ。今、武器も持ってくる」


「あ、ありがとうございます……」


 なんともあっさりだ。特に何も聞かれずそのまま武器を返して貰った俺達は裏口へ案内される。

 案内される途中、ハクヤが怖い顔した好青年から何か言われていたが距離の離れていた俺には聞こえなかった。


「そうそう、不法侵入の件は良いとして城に穴が開いた分のお金はきっちり請求させて貰うからね」


「あの、それなんですけど……今、俺達お金が無くて……だからその……」


 残念な事にテレポートする際、大事な荷物をドワンウルゴに置いてきてしまった為、現在俺達の手元にはお金が少ない。


「そうか……ならば冒険者として稼いだ際、3割を天引き、と言う形で手を打とう。手配はこちらでしておくよ」


「ほんと全部すみません。ほら、お前らも頭下げろって!」


「ごめんなさいなの」


「……すまないと思っている」


「実はさっきワタルさんが牢屋の壁を壊してました」


 バカあああああああッ!!!


「それも請求書に入れておこう」


 最後に請求書を渡された俺はそれを受け取り無事釈放。

 だが、最後に彼は俺達が後ろを振り向く際何か不思議な事を言った。


「見つけても話し掛けるなよ。彼らは今更なる成長を遂げている。君のせいでそれがパーになっては元も子もない」


 俺には理解が出来なかった。反応に困り、結局頭だけ下げ城を後にする。

 数分歩くと街はすぐに見えて来た。


「はあ…やっとか、マジで災難だったな。これからどうすんだ?」


「もう空は真っ暗ですし宿探しませんか?」


「んん…眠いの…」


「ほらイブ、背中乗っていいから」


 イブをおんぶし、辺りの宿を散策。幸いにも特に困る事もなくすぐに空いている宿は見つかった。

 節約のため二部屋借り、男女で別れることとなった俺達は部屋へ直行。久々の休息である。

 とそんな中、ふと紙切れが目に入った。


「はあああ……疲れた…。そうだ、請求書を見とかな―――」


「どうしたんだい?そんな端金僕達にかかれば一瞬で―――」


 その静寂は事態の深刻さを物語っていた。


 請求書に書いてあるマルは僅か6つ。だがその左隣にはご機嫌に5という数字が立っている。


「うっそだろ……ぼったくりが……」


 俺達は500万ギルの借金を手に入れた。

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