勇者の街、デサール
第65話 大ピンチだが
「バカああああああああああッ!!!!」
肌に風を感じながら急落下する俺は、叫びながらもハクヤへ近付く。なお、隣ではエルスが大の字で白目を剥き、豪風によってシスター服がとんでもない事になっているが取りあえずは無視だ。
「ここ何処だよッ!!!」
「お空なの!」
「落ち着きたまえ。幸いにもかなり高い場所にゲートが開いているみたいだ、気合いを入れれば助かるよ」
この人外野郎がッ!!
「うわ、うッ!?落ちてる落ちてるッ!」
「当たり前だね」
お前、もし無事に地上着いたら泣くまでしばき倒すからな。
だが喚いていても問題は解決しない。高さからして地上までは少し時間はあるだろう。
このままでは唯一の生存が雌豚のみになってしまう。落下が止められないにしても衝撃を抑えることぐらいはしたいところだ。
「な、なにか衝撃を和らげる魔法……いや、こんな時こそスキル……ハクヤは?」
「数多くのスキルを所持している僕でも流石にそんなものは無いね。今回ばかりは勇者である僕の肉体に賭けるさ」
「……イブもいるんだから着地失敗とかやめろよ?子供に見せられる映像を頼むぞ?」
と、まあそんな事言ってる俺が一番危ういのは言うまでもない。
他にスキル持ってそうなのは……
「おい、エルス!起きろ!なんかスキル無いのかよッ!」
ここでやっと白目を剥いているエルスの頬を引っ張ってみると微かに反応があった。
そして、首をくねくねさせて目を擦るエルスは唐突に目を覚ます。
「ん……むにゃ……何ですか……もしかして夜這いですか……あ、……ひゃああああああああッ!?ここここここッ!?」
キツツキかよ。
「落ち着けエルス!取りあえず安全に着地をする方法を考えるんだ!」
「え!?あ、安全にって言っても……」
「……なかなか地上に着かないね」
「黙れッ!」「黙ってくださいッ!」
だが考えている間ま落下は止まることなく進み、遂には地上が見えて来てしまう。
今俺達から見えるのは広範囲に渡る高い壁で出来た街のようなもの。
「……あれは、街か?」
「随分と広い街ですね?どこかの首都でしょうか?」
「お城があるの!」
あいにく俺の記憶には無い街だ。少なくとも俺があの街へ行った事は無いはず…と思っていた俺に対して隣では珍しく難しい顔をしたハクヤが顎に手を当て何かを考えていた。
「おい、お前は行ったことあるんだろ?どんな街なんだ?」
「それは……まあ、下に着いてからだね」
「そ、そうか……なら別にいいけど……」
そんな良い思い出は無さそうだ。これ以上聞いても意味は無いな。
「それより君は着地の事を考えるべきさ」
「ってそうだよなッ!あああああもう時間が無いぞどうすんだよッ!?」
「あ、それ役に立ったりしませんか?」
何かに気付いたのかエルスが俺の持つ多分ギジンカして美少女になる杖に手を伸ばす。
「ほら、この杖ボタンが付いてるんですよ!もしかしたら謎のパワーを秘めてたりするんじゃないんですかね?」
よく見ると手元の部分に小さなボタンがある。もちろん普通の杖にはボタンなんて付いているはずもない。
「……一応な?」
取りあえず1ポチ……。
『頑張ってー!』
ふざけてんのか。
杖から聞こえたのは誰かも知らない女の子の声。すかさずへし折ってやろうとしたが勿体ないのでギリギリ踏みとどまる。
「ワタルさん、もう一度お願いします!」
「……え、は?……ほら」
『チャンスチャンスッ!いけるよー!』
大ピンチだが。
「素晴らしいね。つまりこのボタンは押すと美少女が応援してくれるらしい」
絶妙にいらない……ってか美少女とも断定は出来ねえだろ。
「おにーちゃんはイブが応援してあげるから必要無いの!」
ありがとな……ってそうじゃない。
「やめだやめッ!エルス、お前バフスキルいくつか持ってるよな?せめて硬くなるみたいなやつはあるか?」
「あるっちゃありますよ。ハイリスクカードってスキルが」
確かハイリスクアップがスピード強化、追加効果が終わると動けなくなるだったか…。
要はその防御版って事か?
「……まあ、それならせめてそれだけでも俺達に使ってくれ。多少はダメージ抑えられるだろ」
「そうですね、それなら任せて下さい!ハイリスクガードッ!ちなみに硬くなるのでもちろん手を動かす事も出来ませんし口も開く事も出来ないので気を付けてください!」
……遅いんだよ。
「―――――――ッ!―――!」
「――?―――――!」
気合いを入れ口を開こうとするが無理なものは無理。まぶたすら閉じないのでとんでもない苦痛に襲われる。
何故か俺以外は皆目を閉じているのも相まって無性に腹が立つ。
クソッ!下が見えねえッ!
(……お城……に……もうすぐ着くよ)
は?
強い衝撃と共に俺は気絶する。
その日、アルマリーゼ王国首都デサールの王城に、小さな穴ができた。
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