第52話 解決ですね

「誘拐いいいいいいいッ!!!!」


 町中を大声で叫びながら駆け抜ける俺達。


 その様子を見て町の人が驚きつつも不審な目を向けて来るが今この状況で説明している

場合では無い。


「おいっ!今の誘拐だよな!何でッ!?」


「私が知る訳ないじゃないですかッ!きっと特殊な性癖の方々なんですよ!」


「あの軽やかな犯行……惚れ惚れするね」


「うるせぇッ!喋んな!さっさと追い付く方法を考えろ!」


「僕だけ理不尽すぎやしないだろうか?」


「ハイリスクアップいっときます?」


「……ギリギリ却下」


 追い付いても途中で動けなくなっては意味がない。だが相手は馬車を使い現在進行系で逃げて行く。走って追うだけでは距離は離されるだけだ。


 と、そんなこんなで追っているうちに気付けば馬車の姿は無い。目の前には分かれ道があるのでどちらかを通ったはずだが……。


「クソッ!どっち行ったと思う…?」


「この先の道的に馬車なら左かと!しかし私的には右の道にあるパン屋さんがとても気になります!」


「よし、左だな」


 道の左幅の広い左ルートを選んだ俺達は急いで追い掛けるが、


「あ……」


 左の道をの出た先はまさかの大通り。本来このような状況の場合、ギルドカードさえ持っていればイブの位置を把握できるのだが、あいにく俺達は荷物を置いてイブを尾行していたため持っていない。


「やばいやばいやばいやばいッ!!」


「お、落ち着いて下さい!まずは落ち着いて深呼吸を……はい、吸って〜吸って〜」


 吐かせろ。


「ふっ……でもまだ僕達が生きているということは1キロ離れていない。この周辺を探して追い詰めてやるといいさ」


「気楽だな……。間違った方向へ進むと距離が離れて死ぬ可能性だってあるんだぞ?」


 今ここで右へ一歩進むと死ぬ可能性だってあるのだ。そう簡単には動け無い。

 そんな理由で俺が硬直する中、周りを見渡していたエルスが突然俺の肩を叩いた。


「ちょ、見てください!あれ!」


 エルスが指差す先は大通りの俺達から見て右へ続く道の端。そしてそこには一つ、どうにも見覚えのあるものが……。


「あれって……イブに持たせたカバン…!」


 そう、財布を入れておく用に予めイブに持たせておいたカバンだ。恐らくギルドカードなどが入っていたので誘拐犯が逃げる途中に捨てたのだろう。


「って事はあっちか……」


「そうみたいですね……。時間が立っても私達がまだ生きているという事はかなり近い所にあるのかもしれません!」


「そうだよな。ええっと、向こうの方角で近い場所は………」

 

 近くの看板に貼ってある地図でこの先の道を確認する。


「えっと、この先を行くと……まず、レストランだろ、それから洋服屋…で最後に領主の館か……ん?」


 流石に考えた事は皆同じ。

 

「「「領主の館!」」」





✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦★✦


「……そうですか。今向かいます」


 今私の元へ届いた連絡はコーレンス様が探しておられた幼女を無事捕獲したとの事だ。

 ただの誘拐なので無事も何も無いだろと言いたくなったがそこは黙っておく。


「これで少しはコーレンス様にも大人しくなって貰いたいものだが……」


 そう不満を漏らしつつも階段を降り、その捕獲した幼女とやらの様子を確認し行く。

 

 ドンドンッ!


 強く叩かれる扉を開け、幼女……と誘拐犯の皆様を監禁部屋へと迎え入れる。


「おうおう!ボイドさんよぉ!こりゃあ簡単な仕事だったぜ!なにせ一人で歩いてたからな!」


「そうですか。では確かに」


 彼らの話には興味も無いので幼女を受け取ると大金を渡し、帰ってもらう。少し傭兵として雇おうとも考えたが幼女一人に傭兵など付ける必要も無いだろう。

 誘拐犯の皆様が帰った事を確認すると私は幼女を起こし始める。心配性という訳でも無いが手錠も付けておいたので逃げられる心配も無い。

 

「……起きてください」


 幼女の顔の顔をペチペチと叩くが特に反応は無い。


「……ごほんっ。起きてください!」


 今度は幼女の頬をつねってみる。かなり柔らかい感触が指に伝わる。癖になりそうだ。


 って違うでしょ。


「いい加減起きてくださいッ!」


 耳元で叫ぶと効果があったようだ。


 幼女は『ん……おつかい…』と呟きながら目を覚ます。そして辺りを見回したあと私に向かって言った。


「……ま、魔王城なの?」


 年相応に怯えた様子。無理も無い。いきなりこんな所に誘拐されて怖がらない子供などいないだろう。


「いえ、領主様の館です」


「あ、なら良かったの」


 バキンッ!


 手錠の砕ける音。 


「……す、少し時間をください」


 どうやら腐りかけの手錠だったらしい。突然の事に一瞬焦ったがこの幼女自身が状況を把握していないので再度手錠をはめることは可能だ。

 

「動かないで下さいね」

  

 再度手錠で幼女の手首に固定。今度こそ動けないはず。解決ですね。


「ん……ちょっと邪魔なの」


 メキィィッ!!


 待て、鳴ってはいけない音が鳴った。


 ひん曲がった手錠はボトリ…と床へ落ち、ギラギラと光っている。


「……失礼ですが何か武術を?」

 

「の?」


「え、えっと……何か戦う様な経験は?」


「イブは冒険者なの!」


 なるほど。それならこの力も納得……出来るわけ無いだろ。

 とそんな時、幼女から都合の悪すぎる質問が飛んできた。

 

「イブは何でここにいるの?」


 この状況では何と答えるのが成功なのでしょうか?暴れられても困りますし……。


「……簡単に言えば愉快なゆうか〜いみたいなものです」


「つまんないの」


 すみませんでした。


 慣れない事をするものじゃ無いですね。純粋無垢な幼女に言われるとかなり心に来ることが分かりました。


「し、しかし恐れる事はありません。貴方にはこれから領主様にあってもらいます」


「イブは褒められるの?」


「領主様は喜ばれるかと……」


「じゃあ行くの!」


 勘違いして張り切った幼女は近くに落ちていた持ち物?と思われる杖を拾うと笑顔で鍵を締めておいたはずの扉をぶち破り振り返って言った。


「案内が欲しいの……」


 さて、これからどうしたものか。

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